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お前の夢は嫌いじゃない



 信長の妹、いちが嫁ぐことで、浅井長政との同盟は成った。

 翌年の北伊勢侵攻を挟み、その翌年。美濃斎藤家の居城、稲葉山いなばやま城が落ちた。


 まず東美濃みの衆が織田方につき、ほどなくして中、西美濃の国衆も織田方に寝返った。

 稲葉山城は孤立し、織田本隊が城下にたどり着くまでに、斎藤方は戦意を喪失。国主斎藤龍興さいとうたつおき以下ほうほうの体で、かろうじて中立地帯の伊勢長島へと落ち延びていった。



「織田のは、やったみてェだな」


「はい。正道さま」



 熱田の地からそれを見守っていた正道と妻の文は、そう言いあって喜ぶ。


 正道は、稲葉山城の方角に向けて、親指を立てた。



自分テメェを通したなァ。織田のォ!」



 ほどなくして、信長は拠点を稲葉山城に移し、この地を“岐阜ぎふ”と改めた。

 それを聞きつけた舎弟たちは、興奮に沸いた。



「おお、岐阜県じゃねえか! すげぇぜオダノブナガ、県を作りやがったぜぇ!」


「おお! スゲェ!」


「さすが兄貴の兄弟分!ビッグだぜえっ!」


「で、岐阜ってどこだっぺ?」



 シゲルは何にツッコめばいいのか分からない。







 しばらくして、岐阜の信長から招きがあった。

 いもうとも連れて来てほしい、ということで、夫婦そろって熱田を発つことになった。



「お前と旅するのは、初めてだなァ」


「ほんとうに。うれしいです」



 空気の読める部類の舎弟たちを何人か従え、ふたりは岐阜までの旅路を楽しんだ。

 途中、美濃の有力者がつぎつぎと挨拶に現れたが、その表情には、一様に恐れの色があった。

 まあ、自領の小道まで詳細に描かれた地図の持ち主だ。首根っこを押さえられているような心地に違いない。


 結局、顔見せの挨拶として送られた礼物の山を抱えて、正道たちは岐阜にたどり着いた。



「トシィ。加藤図書助とっつぁんに相談して適当にお礼考えといてくれやァ」


「あいよ」



 空気読める筆頭。副ヘッドの佐々木歳三に処理をぶん投げると、正道は文ひとりを連れて、信長に会うため、城に登った。






 案内されたのは、金華山から城下がのぞめる部屋。

 そこに、信長は待っていた。



「山田の」


「よォ、織田のォ」



 ふたりはたがいに挨拶を交わす。

 挨拶が終わるのを待っていたかのように、文が正道の影からひょこりと顔を出して、信長に笑顔を向けた。



「兄上、おひさしぶりです」


「お文。子供は元気か?」


「はい。もう(数え)四つになりますが、父に似て、やんちゃで。名前のあやかり主にも、似たんでしょうか?」



 正道の子、三郎の名は、信長にあやかってつけられている。

 それを知る信長は、甥っ子の将来に不安を覚えたのか、眉をひそめた。



「はっはァ。まわりも馬鹿ばっかだからよォ。将来心配だぜェ」



 言葉とは裏腹に、正道はうれしそうだ。

 放任主義でございと、顔に書いてある。



「……たまには坊主に説法せっぽうでも受けさせることだ。それから、大事な身なのだから、くれぐれもひとり歩きなどさせぬようにな」



 信長は気遣わしげに言った。

 いろんなものが棚に上げられている。



「――なあ、山田の」



 家族の居る奥に、文を遊びに行かせて。

 信長はふいに口を開いた。



「なんだァ、織田のォ。あらたまっちまってよォ」


「わしには、夢がある」


「そりゃァ、なんだァ?」



 正道が尋ねると、信長は一言で答えた。



天下布武てんかふぶ


「おいおい、オレには学がないんだァ。ちゃんと説明してくれェ」


「平たく言えばな、わしが天下の覇者となるということだ」


「日本の頭ァ取るってことか」



 信長の説明を、正道はさらに超訳した。



「――いいじゃねェか。でけェ夢だ。しかも間違いなく本気の、だァ。まったく、ヒートな男だぜェ」


「お主なら、わかってくれる気がしていた」



 ふたりは彼方をながめながら、握手を交わす。



「貫けよ、テンカフブ。お前が夢を叶える様ァ、このオレが、見守ってやるぜェ」


「いまの言葉だけで、百万の兵を得た思いよ」



 信長は、この時より天下取りに向けて大きく舵を切り始める。

 そして永禄えいろく十年九月。信長は将軍足利義昭あしかがよしあきを奉戴して、上洛を開始した。






 信長「ちなみにお前の夢は?」


 正道「ん? 地球制覇」


 信長「」



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