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歴史の意味など考えない



 清洲きよす同盟が成って、しばらくのち。

 信長が、熱田にやって来た。

 雨の日だった。



「織田の。お前が来ると、いつも降るなァ」


「まあな」



 信長はうなずいた。

 この男は自分が雨男だと自覚している。



「美濃取りは進んでるかァ」


「ぼちぼちというところだ。じきに本拠を移す。美濃との国境くにざかいだ。熱田からは遠くなるがな」


「そうかァ。まあ、入ってくれやァ。ふみも喜ぶぜェ」


「そうさせてもらおう。そういえば、この間は珍しい菓子を寄越してくれたな。礼を言うぞ。母が、久々にわしの前で笑顔を見せたわ」



 母――土田御前どたごぜんは信長の実母だ。

 父信秀のぶひで亡きあとの後継者争いで弟信行のぶゆきを推し、そのため信長は信行を斬ることになった。



「そりゃあよかったなァ。また舎弟に言って作らせるぜェ」


「ありがたい。そういえば、山田の。今日は連れがいてな。ぜひともここに来たいというので、連れてきた。とりあえずぬしの舎弟どもに引き合わせて置いてきたが、あとで顔を見せよう。なかなか器用なやつでな、重宝しているのだ」


「へえ? なんてェヤツだァ?」


木下藤吉郎きのしたとうきちろうという」







「おひけえなすって! 手前てまえ生国しょうごくは尾張中村。うじは木下名を藤吉郎と申すもののふに御座います」


「俺は安藤国綱あんどうくにつな。通称はヤス。山田正道をアニキと慕い、アニキ一筋に生きるアニキ第一の舎弟(自称)ッス!」


「ほう? しかし、わしも主君への忠誠心にはちょっと自信があるぞ?」



 威勢よく名乗りあった二人は、ふふ、と不敵な笑みを浮かべあう。



「俺はアニキのためなら命捨てれるッス!」


「あまい、そんなの初歩の初歩じゃわ! わしは主の履いた草履なら、たとえ牛馬の糞を踏んでいようと頬ずりできるわ!」


「お、俺だってアニキの靴が汚れたら、よろこんで口でキレイにしてやるっスよ!」


「……やるな!」


「そっちこそ!」



 なにやら妙な友情が生まれた。



「うおおおっ!? 豊臣秀吉じゃああっ!」



 木下藤吉郎の名を聞いて、シゲルがすごい勢いで突っ込んできた。



「なんじゃこやつ! 曲者か?」



 この時代の格好をしているせいで、山田党とは思われず、全力で警戒された。



「だれっスかアンタ!?」


「ヤスゥッ! お前は分かれよシゲルだよこのボンクラっ!」







 藤吉郎を屋敷に呼んだところ、ヤスもいっしょにやってきた。



「なんだァ、ヤス。お前も一緒だったかァ」


「はいっス! 意気投合して、マブダチッス!」


「はい! 安藤どのとはすでに肝胆相照かんたんあいてらす仲にございます!」



 正道が声をかけると、二人は肩を組み合う勢いで仲良く声を合わせた。



「……安藤ゥ?」


「アニキぃーっ!? 俺の名字っスよ!?」



 ヤスが悲鳴を上げて猛抗議する。



「はは、安藤どの、その様子では、この木下藤吉郎ほどには、主の覚えは――」


「……木下?」


「殿ぉーっ!? 拙者の姓にござるぞぉっ!?」



 悲鳴がダブルになった。


 その様子を見て、文がくすりと笑い。

 すぐに失礼だと気づいて無礼を詫びる。


 そんな妹を見て、信長はわずかに口元をほころばせた。



「ま、座興ざきょうはこれまでとしよう。山田の。こやつが木下藤吉郎だ。小者しょうじゃだったのが、普請ふしん勘定かんじょうに小才を示しよってな。使っておる」


「ほう? 普請っていやあ、ヤス。オメェの家の仕事とおんなじじゃねェかァ」



 ヤスの父親は大工の棟梁とうりょうである。

 そのことを思い出してヤスに声をかけると、藤吉郎が興味を示した。



「ほう。安藤ヤスどののお家もご普請を?」


「んな大したもんじゃねえっスけど、まあいろいろ知ってる方じゃないっスか? 自慢じゃないっスけど、ここにはない技術いっぱい知ってるっスよ」


「それは興味深い。いずれとくと語りましょうぞ」



 ふたりは親しげに語りあう。

 どうやら本当に気があうらしい。


 正道はにやりと笑った。



「木下の、ヤスと仲良くしてやってくれェ」



 スーパー一夜城フラグが立った。






 秀吉「教わった通りにしたら、一晩でクソ立派な砦が出来たんだけど……なにこれ怖い」




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