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甘いものなら嫌いじゃない



「甘いもン、作るかァ」



 正道はある日、舎弟たちを集めてそう言った。

 甘いもの、と聞いて嫁のふみがそわそわしている。

 じきに、すっぱいものが食べたくなるかもしれないが。



あねさんのためですかい?」


「それもあるけどよォ。清洲きよすの兄弟のためよォ」



 信長は下戸げこの甘党だ。

 女子供は言うにおよばず。

 彼らに、現代の甘いものを味あわせてやりたい。

 そんな好意から出た思いつきである。


 それに、正道も、甘いものは嫌いではない。



「オレァ、甘いもンは嫌いじゃねェがよォ、作り方となるとさっぱりわかんねーしよォ――誰か、わかんねェかァ」



 正道の問いかけに、舎弟の一人が威勢よく手を挙げた。



ヘッド! またいつもみたいに加藤のおやっさんに頼んだらどうですかい!?」



 戦慄のムチャ振りである。

 たまたま顔見せに来て、話を盗み聞いていた加藤図書助ずしょのすけの背中に、冷たいものが走った。







「まあ、加藤のおやっさんには後で頼むとしてもよー。甘いもんっつっても、そもそもこの辺、甘いもんがあんまりねーんだよなー」



 舎弟のひとりがぼやく。

 それを皮切りに、舎弟たちは好き勝手に話し出した。



「そうだべなぁ。くだものか、あんま甘くない干菓子ひがしみたいなのばっかでよー」


「そうそう。こないだ加藤のとっつぁんに甘いもんくれって頼んだら、なんか砂糖ケチった饅頭みたいなのだったしよー」



 ――アホ言うなーっ! 全員分の砂糖饅頭作るのに、どれくらい金かかったと思っとるんじゃー!?



 砂糖もまだまだ高価な時代だ。

 図書助も苦労したに違いない。

 その苦労がまったく伝わっていないあたり、泣けてくる。



「そういえば、この間、図書助さまにいただいた砂糖饅頭はおいしかったですね」



 文がつぶやいた。

 ほとけがそこに居た。

 救われた思いで、図書助は泣いた。







「おう、そういえば浩二こうじ! お前、家が洋菓子屋だったよなァ! 作れんのか?」


「できるわけねーベさ! たしかに家は洋菓子屋だけどよう、おれ店の手伝いしねーし、厨房ちゅうぼうに入ったこともねーベよ!」



 ムチャ振りを向けられ、浩二があわてて両手を振る。

 その横で、やはり舎弟の一人がそっと手を挙げた。

 浩二の親友、龍一りゅういちだ。



「……オレならできるぜ」


「龍一! おめえがなんで!?」



 親友の発言に、浩二が首をかしげる。

 龍一は照れくさそうに頭をかいた。



「実はよう、お前の親父さんが、娘を嫁に欲しいなら、いっぱしの職人になれるように修業しろって……」


「おいぃ!? おめえ妹とデキてたっぺか!? いつの間に!?」



 龍一の、試行錯誤の上にできあがった和風ケーキは、信長をはじめ方々に人気で、材料と資金を提供した図書助は無事元を取れたらしい。






 フロイス「これが我が国のお菓子、金平糖コンフェイトにごさいます」


 信長「知ってた」


 フロイス「解せぬ」




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