セミノコエ
ちぐはぐ部屋に新たな家具がやってきた。
風鈴
「風鈴は家具か?」という疑問はご勘弁いただきたい。
やってきたといっても、飾られる場所は部屋の中。
風の吹かない場所に吊らされているだけなど、風鈴にとっては不本意甚だしいだろう。
そんな風鈴に手を差し伸べる。いや、息を吹きかける者がいた。
「ふぅ~~~。こら風鈴~。サボってちゃダメでしょ~」
「……人力の風鈴なんて風情があるのでしょうか」
「でもこの音聴くと夏って感じだよね~」
「そうですね。おや?あちらのほうでは、セミが鳴いてますね」
「ツクヅクボーシ、ツクヅクボーシ」
「やけに発音がしっかりしたセミだね~」
「きっと何かを訴えているのでしょう」
「ツクヅクボーシ、ツクヅクボーシ」
「わかった~!『もう帽子をかぶるのは嫌とつくづく思った』って訴えてるんだよ~」
「何かトラウマになるようなことがあったんでしょう」
「あっ~!またなにか訴えてるよ」
「コリゴリボーシ、コリゴリボーシ」
「間違いないですね。『もう帽子はコリゴリだ』といっています」
「イヤイヤボーシ、イヤイヤボーシ」
「帽子がイヤなんだ~」
「イライラボーシ、イライラボーシ」
「イライラしてますよ」
「なんでそんなに帽子を嫌ってるんだろ~?」
「チクチクボーシ、チクチクボーシ」
「帽子がチクチクしてたんだって~」
「ブカブカボーシ、ブカブカボーシ」
「サイズを間違えた」
「チカチカボーシ、チカチカボーシ」
「妙に目につく~」
「フニャフニャボーシ、フニャフニャボーシ」
「それはそういうデザインなのかもしれないですよ」
「ところでいつの間にか夏だったんですね~」
「いや、地域にもよりますが、5月は流石に夏ではないのでは?」
「あつはなつい~」
「ビリビリボーシ、ビリビリボーシ」
「あっ~!ついに帽子を破っちゃった」
「グシャグシャボーシ、グシャグシャボーシ」
「丸めて捨てようとしてます」
「メラメラボーシ、メラメラボーシ」
「わ~!火をつけちゃった~!火を消さないと~!誰か~!助けて~!」
「…………ショウボーシ、ショウボーシ」
「おもしろ~い」
「非常に見事なオチでしたね」
「…………ゴメン、アタシ……立ち直れそうにない」
「そんな下向いてちゃダメですよ」
「潔く前を向いて行こ~!」
「どうせアタシは滑ってばかりいるんだ……」
「そんなこと、なくもなくもなくもないですよ」
「気のせいだって思おうと思えば思えなくもないよ~」
どよーん
「さてまだ会議は終わってません!」
「アタシの"どよーん"は無視か?」
「立ち直った~」
「きっと話の終点を見失ったんでしょう」
「まだ会議は終わっちゃいねぇ!終わっちゃいねぇぇんだぁー!」
「……無駄に気合いが入ってる」
「カラ元気だ~」
「会議に結論は出ても、まだアタシたちにはやらにゃあならねぇことがある!」
デデン!
「そいつぁ、アタシたちの世界の良いところを教えてやるってなこった。」
デデデン!
「耳かっぽじってよぉーく聞けー!これらら……」
「噛みましたよあの人」
「噛んだ~」
「…………立ち直れそうにないです。ぐすん」