チャブデリア
「動くな!絶対動くなよ!」
「うわぁ~~~ん」
「まさか、なんてことに……」
三人は絶体絶命の危機に陥っていた。
なぜそんなことになったのか、時間を少々遡る。
――10秒前――
ニックネームを巡る争いは苛烈を極めた。
取っ組み合い、掴み合い、鍔迫り合い(?)の激しい乱闘。
もちろんお約束どうりのチャブ台返しも披露された。
ただ想定外だったのが、ひっくり返したチャブ台が天井で爛々としていたシャンデリアとゴッツンコしてしまい(どれだけチャブ台が空中遊泳を楽しんだのかは想像に難くない)、まるで万華鏡のように、まるで桜吹雪のように、まるでダイヤモンドダストのように、シャンデリアは儚くも輝きながら"畳"という名の異世界へと舞い降りていった。(チャブ台が当たるだけで落ちるなんてことはアニメ的、マンガ的、ゲーム的要素である)
そして"畳"の世界で暴れていた三人のヒロインたちは天を仰ぎ見た。
目を疑うとはこのことか。
何の変哲もないシャンデリアがビックバンの如く弾け飛び、光の残滓を振り撒きながら落下してくるではないか。
綺麗だった。美しかった。
いや、この一瞬の出来事を言葉にすることはできないだろう。
ただ三人のヒロインは刹那に感じ取っていた。この光景の意味を。
「やべっ!」
「うそ!?」
「うぁ~~~!」
ガシャーーーン!!!
パラパラ
ドン!!
「っお、お前ら大丈夫か?」
「なんとか、ただガラスの破片があちこちに……」
(最後のドン!!はチャブ台の落下音である)
「動くな!絶対動くなよ!」
「うわぁ~~~ん」
「まさか、なんてことに……」
辺りは混沌としていた。
散らばったガラスの破片、照明器具を失って襖のほうから漏れてくる明かりだけしかない部屋、部屋の角でひっくり返っているチャブ台。
「チャブ台とシャンデリアなんてどんな組み合わせだ、なんて思ってたら、まさかこのフラグだったのかぁ?」
「いいえ、そんなはずはありません。作者は後先考えられるような人ではありませんから」
「ねぇ~~、話してないで~、助けてよ~」
「助けろったって、アタシだって動けねぇしなぁ」
「……すみません。私のせいで」
「ゲヒンさんが悪いんじゃないよ~」
「そうそう。ゲロイン600mgを怒らせたアタシたちにも責任はあるわな」
「だったら反省してください!」
「う~、ほんとだったらもうボクの役名も決まってるはずだったのに~」
「ミリグラムが駄々捏ねるからなぁ」
「こそこそ」
「こそこそ」
「こら!人が動けないのをいいことに、なに話しているんですか?」
「冗談はさておき、とにかくこの窮地を脱っさなきゃぁならない」
「はい」
「そこでアタシは部屋の模様替えを提案する」
「賛成賛成ルパン三世~!」
「そうですね。和室よかったんですが、仕方ありません」
「和には趣があるもんね~」
「趣がわかるなら、なぜシャンデリアなんて使用する事にしたのですか?」
「かわいいかと思って~、和洋折衷だね~」
「……まぁいいでしょう。よければ始めましょうか?どんな部屋にしましょうかね?」
「んなこと言ってる場合でもねぇだろ。運次第だ」
「え~、事務連絡で~す。読者の皆様は『部屋の模様替えとか、なんやねんそれ?』だったり『設定がさっぱりわからん』等々思ってるかも知れませ~ん。しか~し!次回あたりからバッチリ解決しちゃうよ~なお話になると思いま~す」
「ホントかそれ?」
「作者はそうしたいって言ってま~す」
「よければ始めましょうか?」
シャンデリアが落ちてるガラスだらけの部屋
僅かな光しかない薄暗い部屋
片隅にチャブ台がひっくり返っている部屋
「この世の終わりだなこりゃ」
「つまりここまでの話は序章に過ぎないので~す!」
「なんの話?」
「さっきボクが全力で説明してたの、もう忘れちゃったんですか~?」
「よければ始めましょうか!?」
「はいよ」
「わかったわかった~」
三人のヒロインは片腕の掌を天に掲げた。
するとそれぞれの髪色と同じ色の光が、掌の上で仄かに輝き始めた。
次第に光は大きくなり、遂には部屋全体を眩しく包み込んでいった。