新井雪乃の家庭事情
新井雪乃の毎朝の日課
1朝食をつくる
2母を起こす
3学校に行く準備をする
雪乃の家は、とある事情を抱えている。
雪乃が小学3年生の頃
両親は離婚した。
原因は、父による家庭内暴力。
母はいつも雪乃をかばった。
今でも、消えない傷がいくつも残っている。
父は仕事のストレスで、いつも母に八つ当たりをした。
殴る蹴るなんてことは、日常茶飯事だった。
痛めつけられる母
その姿を見ているのが、雪乃にはたまらなく辛かった。
母は父が好きだったのだ。
大好きで大好きで、仕方がなかった。
暴力を受けるたびに泣いていた。
でも、明日になれば優しい父に戻ると自分に言い聞かせ
辛くても笑っている母。
胸が痛かった。
雪乃はある日、母に尋ねた。
「お母さん」
「なに?」
「お母さんは、どうして辛くても笑っていられるの」
まっすぐな瞳で見つめた。
どうしても、気になっていた。
すると、
母は視線をふっと逸らし、悲しげな目をしながら言った。
「辛いことがあってもね、笑っていればどうにかなるのよ。雪乃も、辛い事があったら笑いなさい。
笑えば辛い事なんて吹き飛んじゃうんだから」
そう言って、また母は苦しそうに笑った。
辛くても笑う
これは母の癖だ。
そして、
その言葉を信じてきた雪乃にとっても
辛くても笑うということは
とても大事な事だった。
笑っていればどうにかなる。
今までずっと、そう思ってきた。
学校でも、ひたすら笑っている。
友達と喋る時。
お弁当の時間。
授業中だって。
友達と居る時は楽しい。
けれど
どうしても、見えない壁があるような気がした。
ただ笑っていればいい。
笑うだけで、友達も出来るし、先生からも、近所の人からも好かれる。
雪乃は、中学生の時点で気付いてしまった。
母の言葉が歪み始めているということに。
最初は、辛いときでも笑っていればよかった。
苦しくても、泣きそうになっても
笑っていれば、大抵のことはどうにかなった。
そのうち
学校でも家でも、無理して笑うようになった。
分かっていたんだ。
楽しくもないのに笑うなんて、馬鹿げていると。
心が冷めていくのが分かる。
いつも、こうだった。
本当に心から笑ったのは、もう何年前だろう?
思い出せない。
記憶が無い。
雪乃は、いつのまにか
ただ笑う事しかできなくなっていた。
高校に行ったら、変わろうと思っていた。
ありのままの自分でいたい。
楽しい時に笑って、悲しいときに泣けるような
素直な自分になりたい。
初めてそう思った。
でも、現実はうまくはいかない。
長年の癖とでもいうべきものが、まとわりつく。
離れない。
どうしても。
笑わなければ。
そう自分を支配する、何かがいる。
結局、中学の頃と何一つ変わらなかった。
けど
それと同時に、一つの出会いがあった。
雪乃はそこで、一人の少年と出会ったのだ。
いかにも憂鬱そうな顔をして、無気力そうに身体をだらんとしている少年。
気になった。
あまりにも自分とは違う彼。
住む世界が違うようにも思えた。
表情をつくるという行為自体、全くしていなかった。
それでも
何かを抱えていそうな雰囲気だけは伝わった。
とても悲しそうな目
雪乃は、どうしても彼と仲良くなりたかった。
内側に入り込んでみたかった。
何を抱えているのか、相談してほしかった。
頼ってほしかった。
初めて見たというのに、いろいろな感情が混ざり合って混乱した。
とにかく、彼を知りたいと思ったのだ。
そう。
あの時から、既に始まっていたんだ。
翼が笑うとアタシも嬉しい。
自然と笑顔になる。
これは、アタシが望んでいたものだ。
アタシは
翼が、好きなんだ
休日の昼下がり。
ベッドに横たわり、ぼんやりとそんな事を考えていた。
(あー・・・・翼に会いたい)
もうそろそろテストなので更新が少なくなります。
というかあと2ヶ月経ったら受験生!
早い・・・
更新少なくなるばかりですが、よろしくお願いします。