雪
あまりハッピーエンドとは言えません。
恋愛モノですが、甘い感じのものではないのでご了承ください!
「あ、雪!」
雪が降ると、決まって彼女は喜んだ。
肌寒い空気のもと、滑りそうになりながらも嬉しそうに声をあげる。
「おい、あんまりはしゃぐと転ぶぞ。」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
笑顔で颯爽と雪の上を駆ける彼女は、まるで初めて雪を見た子犬のようだった。
俺には雪の何が良いのかサッパリ分からなかったが、彼女を見ると まぁ、雪も悪くはないと思える。
俺は、こいつの笑顔が大好きだった。
名前を呼ばれるたび、笑顔を見るたび、自然と心が安らぐのが分かった。
冬嫌いな俺も、少しは冬が好きになれた気がした。
すると、
走っていた彼女が振り向く
俺に声をかける 呼んでいるのだろうか
そこで一気に視界がグラついた。
180度、回転する。
気がつくと、そこは雪山の中だった。とても道幅が狭い 崖だろうか
猛烈な勢いで吹雪いている。一瞬でも気を抜くと、吹き飛ばされそうなすごい風。
目を開ける事もままならない 彼女と二人、立っているので精一杯だ。
「・・・大丈夫か?」
「うんっ・・・なん、とか。」
喋る事もろくに出来ないまま、俺達はなんとか山を降りようと懸命に歩く。
何故こんな所に居るのかという当初の疑問なんて、もう忘れていた。
すると、
「・・・・・・え?」
突然、彼女の足元が揺らぐ
彼女の身体が倒れていくのが分かる
ほんの一瞬の出来事が、スローモーションのように見えた
俺は咄嗟に手を伸ばした
けれど
彼女は、落ちていく
彼女が、逆さまになって落ちていく
何が起きたのか 俺には分からなかった
彼女ガ崖カラ落チタ?
あまりにも一瞬の出来事で 俺の伸ばした手には何も無くて
代わりに 次から次へと降る雪が 俺の手に痛いほど当たる
この瞬間、俺はようやく理解した。
何かを叫んだ気がした
自分への怒りや、悲しみ 言葉にできないものがぐちゃぐちゃと混ざる
でもその声は、吹雪に掻き消されるばかり。
もう一度、手を伸ばした
名前を、呼ぼうとした
「 」
そこでようやく、俺は目が覚めた。
「はあっ・・・はあっ」
息が荒い。背中にはべったりと汗が張り付いている。
カーテンの隙間から、光がこぼれる。
「・・・・・朝か。」
手に嫌な汗をかき、暗い気持ちでゆっくりと起き上がる。
カーテンを開けると、太陽が眩しくて更に憂鬱な気持ちになった。
部屋全体に光が差し込む。
チラリと、クローゼットにかかっている真新しい制服を見た。
溜息が漏れる。
そう、今日は入学式。
憂鬱な高校生活が始まる。