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朝まだきの花  作者: 薄桜
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非常事態

 Part:ウォルター


 不味い、恐れていた事態が起こった。何故気付かれた? 俺は上手くやったはずだ。定期連絡も嘘っぱちだがきちんと続けていた。トーリアとはもう連絡が取れない。今までは彼独自の暗号をかけた回線を使っていた。もし通常のネットワークを使えば、余計彼に迷惑をかける事になる。後を付けられていたか、それとも最初から泳がされていたのか? 考えれば考えるほど、様々な点を疑ってしまう。

「さて、困った。今日の占いは悪くなかったはずなんだがな。ウォルターどうする? 強行突破でもやってみるか?」

 そうだ、何故か? などと考えた所で答えは出ない。そして今は何の足しにもなりはしない。これからだ。今からどう動くのか、それを考え出さなければ意味など無い。

「いや、そんな事はしないでくれ。ミランまでお尋ね者にしたくない。先ずはチェックを受け入れて、何とかやりすごそう。今回は俺たちみたいなヤバイ物を他に積んでいないだろう?」

「ああ、今回はな。だが俺も十分脛に傷持つ身だからな。過去を指摘されれば、立派に犯罪者の仲間入りさ」

 ミランは剛胆に笑っていた。そして部下に指示を出す。チェックを承諾したと管制に返すようにだ。本当にすまないと思う。

「だが避けられるなら避けた方がいい。大事な家族がいるんだろ? 先ずは正攻法と、可能であれば買収。暴れるのは最後で良い。その時は手はず通り、見事に人質を演じてくれよ?」

「分かった。お前も間違ってナイフ刺すんじゃないぞ?」

「当たり前だ。お前の家族にまで恨まれたくない。……うちのだけで十分だ」


 うちの家は代々事業家で、特に祖父さんの立ち上げた通信会社、ゼネラル・コミュニケーション・ネットワークは、この惑星の通信網の大半を牛耳るほどの影響力を誇っている。今の社会にネットワークは欠かせない。政府も軍も企業も、もちろん個人も。全ての人がその恩恵に与っている。

 その偉大な祖父は、常々『軍人にだけはなるもんじゃない』と、言っていた。皆その言いつけを守り、おまけにそれぞれが立派な事業家さまだ。俺だけがその言葉に背いた。おまけに身体まで弄っている、罰も食らった、そしてこれだ。

 もう長い事家になど帰っていないが、これで更に足が遠退くのは確実だ。いや、遠くに行ってしまえば、もう気にする事など無くなると思っていた。だが、そんなに甘くは無かったらしい。


「まだそんな事言ってんのか?」

 ミランは呆れていた。そして言葉は続く。

「親ってのは、子供が思うほど人生縛ってるつもりはないぞ」

「何だ? 分かった風な口をきいてくれるな?」

「分かるんだよ、俺も今は親だからな。本人が正しいと思ってやる事なら、例え何と言われようと味方でいてやる覚悟はあるさ」

「子供、まだ小さかったろ? 随分早くから覚悟を決めたもんだな?」

「それが親になるって事さ」

 俺にはそんな事は分からない。今時は自分の事で精一杯だ。それが顔に出てたんだろうか? 彼はこう続けてくれた。

「人間その時にならないと分かんない事ってのがあるんだよ」

 彼の表情は親のそれに重なる。同い年だというのに、随分な差が付けられたものだ。

「じゃあ、これからどうすればいいか、分かる時がくるのかね?」

「さて、どうだろう? もうすぐ来て欲しくない輩が、俺の可愛い船に乗り込んで来るってのだけは分かるんだがな」

「だな」

 そう、それは事実だ。

「来ました。もうすぐです」

 通信担当の女性が上ずった声を上げた。やはり怖いのだろう。船内のカメラはずっと奴らの移動を追っていた。軍服が六人と、ターミナル職員の制服を着たのが二人。全員男だ。二人が職員である保証はない。決まりきった制服さえ着てしまえば、後は見る側が勝手に誤解してくれる。

 さて八人か。何事も無く……に期待をするのは虫が良すぎるだろう。くるりと見回して皆の位置を確認する。ミランと部下が五人。そして俺たちが三人。ミランは通信士のすぐ後ろで、何か起きればすぐ彼の後ろに回り込めるように意識しておく必要がある。イ……アメリとクレールにも、無茶をするなと指示を出した。

 そう、名前を変えたんだ。アメリという名をとても喜んでくれたから、これからはそう呼ぶ事にしたんだ。


 やがてドアが開き、モニター通りの奴らが現れた。軍服は皆銃を構え、進み出た一人が威圧的な態度で声を張り上げる。

「イブという金髪の女に覚えがある者はいるか?」

 俺は素知らぬふりで首を横に振った。周りも同様に白を切る。制服姿の二人は軍服たちの後ろに控えているが、武装にも今の威嚇にも動揺した素振りも無い。やはり変装を疑った方が良さそうだ。

「わ、私は聖書に登場するイブしか存じませんが……」

 ミランが怯えながらもそう答える。なかなかの役者だな。

「そうか? 隠すとためにならんぞ!」

 再び軍服が口を開くと、クレールが小さな悲鳴を上げてうずくまった。あいつもなかなかやるじゃないか。まさかこんな協力をしてくれるとは思わなかった。最近はずっと無気力で、何を言っても生返事だったのにな。

「いいえ、存じません。私たちは見ての通りただの運送業者です」

 ミランは皆を庇うように、そして軍人どもを刺激しない程度に手を広げた。これは演技じゃないな、守るべきものを守ろうとしているだけだ。

「ほう、そうか……じゃあ教えてやろう。イブというのはな、とても良い女だそうだ。たいそうな美人でな……恐ろしい売女で殺人鬼だ」

 いやらしく、下卑た笑みを浮かべている。周りの奴らも嘲笑の声を立てていた。

「この中にいるんじゃないのか? ここにいるとの報告を受けてきたんだがな。おい、どこだ!? 可愛がってやるから出てこい!!」

 制服の奴らも笑っている。下品な奴らだ、どうせこいつらも切り捨てられた口だろう。八人程度で二人を、いや化け物三人の相手をしてこいと言われてるんだからな。

「そんな人はいません、調べるなら調べて下さい」

「じゃあそうするとしようか、一列に並べ。これだけだな?」

 皆大人しく、言われるままに従って並んだ。いや、クレールだけはうずくまったまま、一向に動こうとしない。当然のように見咎められて、罵声とともに引きずられた。一人一人横柄な態度の軍服たちに検分される。男には一撃くれて、女にはセクハラ紛いの行為を行いながら。本当に最低な奴らだ。

 そしてアメリの番がきた。内心ヒヤヒヤだ。彼女にも……いや、彼女にこそ猥褻な行為が行われる。彼女は声も立てず、必死にそれに耐えていた。だから俺も、殺してやりたい衝動を必死に押さえた。悲壮な空気が操縦室を支配する、まるで嵐が通り過ぎるのを待つようなものだった。しかしそれだけに飽きたらず、兵士どもは我慢強い彼女に徐々に腹を立て始めた。

 そして服の裂ける音がした。さすがにこれ以上は我慢できない。結局ミランに迷惑をかけてしまう事になるな。だが悪いとは思うが、それ以上に彼女を守らなければならない。しかし俺より先に動いた奴がいる。クレールだ、クレールが吠えた。

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