始まりの歌
鐘が鳴る。
椅子に座りピアノの鍵盤を叩いていたとき、ドアが開いた。
「こんにちは、部長」
音楽部の部員である黒河くんが微笑みながら癖っ毛のある焦げ茶の髪を揺らし私に挨拶すると、一つのパイプ椅子に座り、持っていたケースを開いた。
中で光を反射し輝いたギター。
彼はそれを取り出すと、メンテナンスを始めた。
私は再びピアノに視線を戻す。
黒光りするグランドピアノ。
軽く鍵盤を押すと、音楽室全体に音を響かせた。
そのとき、再びドアが開く。
入ってきた音楽部の顧問は大きく口を開いた。
「結城が……事故にあった!」
病院に駆けつけた私たちを待っていたのは、腕を固定された結城くんの姿。
もうすぐコンクールだったのに。
歌を響かせる私。ギターの音を派手に鳴らす黒河くん。更に曲を盛り上げるドラムの結城くん。
随分練習し、団結力も大いにある私たちは優勝候補だったという。しかし三人しかいないのに、一人欠けてしまったら……優勝など無理である。
俯き謝る結城くんに、私は声をかけた。
「こんな私たちだけど、バンド部や吹奏楽部に勝ってるのは何?」
微笑む。
「諦めるな!私たちの誇れることは、諦めの悪さだ!」
そして振り返り、ドアのほうへ足を向けた。
「待つわ、私は。きっと、結城くんが復活する前にもっとうまくなってやるんだから!」
すると、黒河くんも微笑んだ。
「負けてらんないな!」
耳に残る、五月蝿いセミの声。突き刺すような日差しは、今日だけは柔らかく私を包み込んでくれているような気がした。