夏祭り 6
僕の記憶にない
僕が知っているはずの声
その時だった
地鳴りの様な音が爆ぜた
空気を震わせ、それは一筋の光となり
「わっ……」
星空に弾けた。
光の粒子が舞い、一瞬だけ星空をさらに彩る。
「始まった。すげ~!」
光が立ちあがった。それにつられる様に皆立ち上がって空を見上げる。
次々に夜空に打ち込まれる星屑の爆弾は、僕達の目の前で儚い美しさをその一瞬に込めてめいいっぱい煌めかせていた。
「花火って、ちょっと悲しいよね……」
すぐ隣で声がして、僕は驚いてそっちを見た。
あの子かと思ったからだ。
でも、そこにいたのは、浴衣姿で膝を抱えたままの希。
昼間の彼女を思い出し、僕はらしくないなと思った。彼女の顔を覗き込む。
「どうしたの? 皆みたいに立たないの?」
希は少し拗ねたように首を横に振る。
そして、その大きな眼で僕を花火を見上げた。
「どうして、花火ってこんなにきれいなのに、すぐに消えちゃうんだろうね」
「……」
僕は彼女の隣に座り直すと、一緒に花火を見上げた。
しばらくして、彼女が泣いているのがわかった。
理由はわからなくて、僕はどうしたらいいかわからなくて。
こんな時、光ならどうするだろうと考えた。
考えて、僕は……そっと希の手を握った。
――
祭りの帰り、光は何故かすごく不機嫌そうだった。
花火が上がった時まではあんなにテンションが高かったくせに、終わってみるとむっつりなんにも話さない。
当然僕は、ずっと希の手を繋いでいたわけじゃないし、その事はたぶん見られていないはずだ。仮に、それが原因としても心外だった。僕は彼女が泣いていたからそうしただけで、気がついたのなら光だって彼女に声をかけてあげればいいだけの話だったのだから。
祭りの後はどこか寂しかったけど、光の事が気になって、行きにあんなに怖かった石段も気がつくと降り切ってしまっていた。
家のある場所の関係で、青葉が希と梓を送って行くことになっていたし、ハヤテは神社の家の子なので石段すら一緒じゃなったから、僕は光と二人で帰るしかなかった。
正直、相手がなんで怒っているのかわからないから、どうしようもない気まずさが合って、僕は自然に足を速めていた。
さっき別れた皆のホッとした顔を思い出して舌打ちしそうになる。皆、光が不機嫌なのを知っていて、僕に押し付けたんじゃないかって気すらした。実際は違うのはわかるけど、なんとなく貧乏くじを引いた気分だ。
祭りからはける人の波は、家に近づくほど少なくなって行く。バス道を外れあの子と出会った木の辺りになる頃には、周囲に人影は僕たちしかなくなっていた。
背中の遠くの方でまだ人の声は聞こえるけど、それよりもリアルに聞こえるのは稲穂が夜風にそよぐ音だ。
見上げると明るい月に影になった薄い雲が流れているのが見えた。
「勝負……まだだったよな」
「え?」
不意に聞こえた声に、僕は隣にいた光を見つめた。光はあの木の前で足を止めると、じっと雑木林の方を見つめていた。




