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湯けむり殺人事件

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/04/02


温泉旅館「翠晶荘」(すいしょうそう)の大浴場。


自然豊かな場所でロケーションは抜群。

雪景色を見ながら温泉に浸かれる絶景スポットだ。


真昼の空の下、

湯けむりが静かに立ち込めている。

屋根も木も空も真っ白で、一面が銀世界だ。


大学時代の友人三人組で集まったのは、

サトル、ミサ、アカリの三人だけだった。

二十七歳になった今も、昔のノリが抜けきらない三人で有名だった。

夕食を終え、別々の浴場へ向かう直前まで、笑い声が絶えなかった。


ミサ「あら?今日は誰もいないのね、ラッキー!!」

アカリ「珍しいわね。」


それぞれ温泉に浸かっていたその時だった。


サトル「うわっ!足が攣った!誰か助けてくれ!」


サトルの叫び声。


が真っ先に反応した。


アカリ「サトル君!?」


彼女はタオルを取ると、体に巻いた。

二人で湯船から立ち上がろうとした時だった。


ミサ「アカリ、ごめん、私、のぼせて・・・。」


アカリ「え、大丈夫?」


ミサ「私は後から行くから先行って。」


アカリは心配そうな顔をしながらも、男湯へと急いだ。


彼女の姿が女湯から消えると、ミサが濡れた髪をかき上げ、雫が落ちた。


ミサ「バカな女。」


ミサはバッグのポケットから小さなリモコンを取り出した。

遠隔操作できる電気ショック装置だ。

男湯の縁に隠してあったのだ。

小型なので後から騒ぎに便乗して回収すればいい。


悪ふざけを成立させる為に健一本人と手を組んでおき、あらかじめ二人で温泉を貸し切りにしていた。


ミサはアカリの背中が見えなくなった瞬間、リモコンのスイッチをオンにする。


時限装置が作動し、すぐさま健一の悲鳴が上がった。


サトル「うあああっ!」


電流が体の中を走り、激痛が彼を襲う。

健一は湯の中で痙攣し、やがて動かなくなった。


アカリが湯船に到着する時間を逆算し、装置をオフにした。


彼女は慌てた様子を装い、アカリ同様、タオルを巻いただけの姿で男湯へ駆け込んだ。


ミサ「サトル!アカリ、サトルどうしたの!?」


アカリは湯の中で倒れている健一を抱きかかえ、青ざめた顔で振り返った。


「ミサちゃん、サトル君が・・・。」


「そんな・・・サトル!!」


その後、警察が到着するまでミサは驚くフリを演じ続けた。

警察は心臓発作による不慮の事故と断定したが、探偵が現場を調べ始めると事態は急変した。


男湯の浴槽付近から発見された奇妙な痕跡に気付き、

警察が見逃していた場所の中で探偵が直感的に探させた場所。

回収し終えた旅館のゴミ袋の中からミサの指紋が付いた次元装置とリモコンが発見された。


それらは、ミサが犯人であることと、その罪をアカリに擦り付けようとしていることを証明していた。


旅館の一室で、ミサは手錠をかけられた。

そんな中、冷静な口調で吐き捨てるように言った。


ミサ「あなたが来たことは想定外だったわ。無能な警察だけだと思っていたのに。」


その言葉に、刑事の表情が一瞬歪む。


黒いキャスケット帽を被り、黒いコートを着た20代半ばくらいの男性が喋り始めた。


探偵「今日は休みだったので、温泉街へ来て体を休めようと思っていたのですが・・・

この街に来た時から事件の匂いがしていたんですよ。

探偵の感は当たるんです。

どうやら探偵は事件に呼ばれてしまう生き物のようですね。残念ながら。」


ミサ「あらそう。それは大変ね。」


何の感情もこもっていない声でミサが言った。


刑事「それで、動機はなんだ?」


ミサ「あの男、私よりアカリを選んだのよ。信じられないわ。

私の方がずっといい女なのに!」


その時、部屋の隅で震えていたアカリが、か細い声で言った。


アカリ「ミサちゃん、嘘だよね?ミサキちゃんが私を罠にはめるだなんて・・・。」


ミサはゆっくりとアカリの方を向いた。目は嘲笑うかのように冷たく笑っている。


ミサ「あなたって本当バカな女。

ちょっと声を上げただけで、男湯に飛び込んで行くんだから。でも残念だったわ。あの人を殺して、あなたを犯人にできれば、私はせいせい生きられる算段だったのに。」


アカリの顔から、血の気が引いていく。


アカリ「そんな・・・。」


あまりのショックに声が出なかった。

その場に立ち尽くすことしかできずにいた。


探偵が静かに口を開いた。

彼は事件の真相を最初に突き止めた男だった。


探偵「君は最低だな。とんだ性悪女さ。」


ミサが探偵を睨みつけた。


ミサ「何ですって?」


そんなミサに一ミリも動じることなく探偵は淡々と話を続けた。


探偵「他に誰もいない状況とはいえ、

女性が身包みなく男湯に来るということがどういうことなのか分かないのかい?

もしかしたら襲われるかもしれない。彼女は知らなかったようだが他にも人が入って来るかもしれない。

だが、それよりも友人の身を案じて勇気を振り絞って助けようとした。

そんな彼女の気持ちをあなたは踏みにじった。

具合の悪いフリをしたあなたの身も案じていた。

普段からそうやって彼女はあなたに優しさを向けていたんだろう?」


ミサ「恩着せがましいのよ、あの子は。」


少し離れた場所に立っているアカリをチラッと見てミサが言う。


探偵「これは私の推測だが、アカリさんは恩を返して欲しいとは思っていなかったと思うよ。」


アカリは小さな声で、けれど確かな意志を持って言葉を紡いだ。


ミサ「探偵さんの言う通りよ。信じてくれなくてもいい、私、恩を返して欲しいだなんて思ったことない。」


ミサが一瞬目を見開いた。

アカリの声には嘘偽りはなかった。


探偵「あなたは恩を仇で返したんだ。殺人という仇でね。

そんなあなたがいい女だとは、到底思えないがね。」


ミサが初めて顔を歪ませ、唇を噛んだ。

さすがに言い返す言葉が見つからないようだ。


旅館の窓から外の景色が見える。

降り続けていた雪が止んだようだ。


探偵「おや、雪、止んだようですね。」


こうして、湯けむりの中で起きた殺人事件は静かに幕を閉じたのである。


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