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第6話 おやすみ

 玄関から飛び出した俺は、指を下に向けた。

 すると、目に映る全ての悪霊が全員もれなくぺちゃんこに潰れる。


 以前までは、こんな使い方をしていたらすぐにでも霊力が底を突いていた。

 今では霊力量が何百倍、いや何千倍も増えているので全くもって問題なしだ。


『オ前、前々お前前、美味そうだナ!』

渦面(ウヅラ)からもお墨付きをもらえるとはね。だが、食材はお前だぞ渦面(ウヅラ)

『あぁア?』

『あん時の百億倍は強くなったんでな。生前の仇、取らせてもらうぞ!!』

『もぉオオオ一回、殺す!!』


 渦面(ウヅラ)は両腕を蔓のように伸ばし、周囲に蔓延る悪霊を蹴散らしながら俺にそれを振るう。

 あの時より強くなったからわかる。渦面(ウヅラ)はこのゴーストタウンで一番強い。


 しなる鞭のように振るう腕に当たれば、ひとたまりない。

 だが、当たればの話だ。


『はーーっはっはっは! 遅すぎて欠伸が出そうだぜ渦面(ウヅラ)ァ!!』


 俺がこの一年半で獲得した新技。

 霊体内の霊力を全身に巡らせ、身体能力や動体視力などを超向上させるというものだ。


 これにより、生前は訳も分からず殺された腕鞭も軽々と避けられる!


 全方位からやってくる鞭を縦横無尽に避け、みるみる渦面(ウヅラ)との距離を詰めた。


『ギ、ぐギィ……お前、楽しク、なイ!!』

『俺ぁ笑っちまうほど楽しいぜ!? ようやくテメェをぶん殴れるんだから――よォ!!』

『ギャッ!?』


 渦面(ウヅラ)の頬に俺の霊力たっぷりな拳が入り、店の中へと吹っ飛ばされる。

 普通の戦闘なら壁を突き破るだろうが、俺たちは幽霊。

 霊力を込めた物体でないと今のように壁をすり抜けてしまう。


 並大抵の悪霊なら今の一撃で祓えるのに、流石だな。


『しシシシシ、死ぬ……オマエ、は、死ヌ!!』

『ぶん殴られて脳震盪でも起こしたかよ! 俺たちはとうの昔に死んでるだろうが!!』


 俺も壁を通り抜け、渦面(ウヅラ)の顔面を掴んで地面に押し付けながら引きずった。

 地面は霊力が込もっているから潜れない。

 ゆえに、顔面地面やすり掛けはダメージが入る!


 充分にやすり掛けをした後、俺は渦面(ウヅラ)を宙にぶん投げた。


『《ポルターガイスト》!』


 鉄筋、鉄骨、商店街の看板、ふるびた自販機……。

 周囲にあった物全てを、宙にいる渦面(ウヅラ)にぶつけた。


 全て俺の霊力を込めた物だ。

 ダメージは入る。だが、これで祓えるとは考えにくい。


『ぅ、ヴヴヴヴヴヴヴ!!』


 ガラクタの塊の中から蔓腕が伸び、次々と悪霊に突き刺さる。


 クソッ、バカみたいにいる悪霊どもが邪魔だな。

 こいつらがいるせいで、倒される度に渦面(ウヅラ)の霊力が微量ながらも回復された。

 俺も同じことだ。悪霊がいるおかげで致命傷を喰らってもすぐ回復できる。


(あいつを倒すには、一撃で屠る必要がある。今の俺が出せる最高火力を放つしかない!)


 常に霊力を拳に込めて放つ一撃は、大体七から八割の火力。

 十割(さいこう)火力は刹那的にしか放つことができない。

 条件としては、放つ寸前の〝約一秒の溜め〟。その間、ポルターガイストは使えない。使えば火力が下がる。


 だが、あの渦面(ウヅラ)が律儀に一秒待ってくれるほど雑魚でもない。

 ポルターガイストが使えないため、ほぼゼロ距離で〝溜め〟をする必要がある……。

 うん、クソゲーかな? 難すぎだ!


 まあ、自分で作るしかないよな、一瞬の隙を。


『殺ス……お前ハ、ぜッたいニ……!!』

『奇遇だな渦面(ウヅラ)、俺たち両思いだぜ。俺もお前は絶対に殺す』


 がらくたの塊から出てきた渦面(ウヅラ)は、もはや人の手足の本数を超えていた。

 数十本の腕を振り回し、渦のように回転して商店街のあらゆる物を巻き込んでいる。

 まるでハリケーンだ。


 形態変化なんて聞いてねぇ! 俺も変身したい!


『師、子、史、誌、死ねェエエエエエエエエエ!!』

『骨が折れそうだな……!』


 渦面(ウヅラ)が巻き込み、飛ばしてくる物体全てにやつの霊力が込められていた。

 霊体の俺にもぶつかってしまう。


『ちったぁ大人しくしろ! 《ポルターガイスト》!!』

『ギッ!!』

『うん、やっぱダメージは見込めないな』


 ポルターガイストで物を引っ張り、無理やりハリケーンの中に突っ込んで後頭部に直撃させた。

 だが、悪霊が無制限に渦に巻き込まれているため、持続的に霊力が回復している。


 だが、これでいい。


『《ポルターガイスト》! 《ポルターガイストォ》!!』


 ハリケーンに巻き込まれぬよう、腕に当たらぬよう、やつの後頭部に物を当てまくる。

 しばらくそれを繰り返したが、そろそろ頃合いだろう。


 ハリケーンの中に、次々と車や油などをぶち込んでゆく。

 そして、ハリケーン内で一つのバイクを握りつぶす。


 ドガンッ!!

 爆発を起こし、炎を纏ったハリケーン――火災旋風へと姿を変えた。


 俺たち幽霊に物理的な炎は効かない。

 一見敵を強化したかに見えるが、これでいい!


『なんせ――()()()になったからなぁ!!』

『あぁあああ! シね!!』


 俺は火災旋風の中に飛び込み、渦面(ウヅラ)の目の前までやってきた。

 腕を伸ばして攻撃しようとしてる。溜めはできない――。


 本当かな?


『ポルターガイスト……!』

『ッ!!』


 俺の呟きを聞き逃さず、渦面(ウヅラ)()()()()()()()()()()


 ――〝条件反射〟。

 これは特定の刺激に反応してしまう現象だ。


 有名どころで言うとパブロフの犬である。食事の前にベルを鳴らす。

 それを続けると、ベルの音だけで涎が出てしまうというもの。


 俺が毎回「ポルターガイスト」と叫んで後頭部を攻撃。

 ずっと続けることで、やつは再び後頭部を攻撃されると()()()()()

 そう、実際には使っていない!


『がら空きだぜ、渦面(ウヅラ)ぁ!!』


 この間、たったの一秒。

 されど一秒。


 〝溜め〟が完了した!!


『ぃ、イィイイイやぁあアア! ヤメ、ロォオオオオオオオ!!!!』


 最高火力の拳を渦面(ウヅラ)に放つ。

 その拳は顔面を貫き、霊体はゴーストタウンの端まで吹っ飛んでいった。


『はぁ……はぁ……。やっ、た……。か、勝ったぁ……!!」


 息が切れ、霊力がほぼなくなっている。

 しかし、悪霊を倒した時の霊力が増える感覚がしたため、勝利を確信した。


渦面(ウヅラ)の霊体も……遠くで消滅してるな』


 霊力は回復した。だが、片腕が上手く動かせない。

 今すぐ地面に横たわって、霊力を感じながら眠りたい。

 そうも思ったが、やるべきことはまだある。


 俺はゆっくりとした足取りで歩き、帰ってきた。

 ばあちゃんが待っている家に。


『……ばあちゃん』


 もしかしたらもう、家の中で亡くなっているかも。

 そんな不安がよぎり、家の中に入るのを躊躇う。


 でも、約束したもんな。


 俺は決意を固め、家に入った。

 するとそこには、


「――……お帰り、零ちゃん。あんたなら勝つって信じとったよ」


 俺のことを待っていてくれたばあちゃんが、そこにいた。


『――! うん、ただいま!!』


 ――この夜は、祭りのように騒がしかったという。

 まるで最盛期の商店街に戻ったかのように喧しかったと、ばあちゃんは笑いながら話してくれた。


 渦面(ウヅラ)のこと、これまでのこと、それからこれからのこと……。

 先ほどまでの騒がしさが嘘みたいに静かに、縁側に座りながら二人で語り合った。


 楽しかった。

 ずっと話をしていたい。

 涙を流すことなんか忘れるくらい、今を満喫していた。


『――おっ。ばあちゃん、月が出てきて明るいぞ! 奇麗だな~』

「――――」

『ばあちゃん?』


 月明かりに照らされたばあちゃんは、縁側のガラス戸に体を預けてもたれ掛かっている。

 ばあちゃんに手を伸ばしたが、俺は伸ばす途中でぎゅっと握りしめてやめた。


 空きかけた口を閉ざす。

 歯を食いしばる。

 下唇を噛む。


 それでも、最後には無理やりにでも笑って見せた。

 そして、たった一言だけ呟く。


『…………おやすみ、ばあちゃん』


 ばあちゃんの口元は笑っていた。

 楽しかったんだと思う。満足したんだと思う。


 ばあちゃん、満足して幽霊にもならなかったじゃんよ。

 よかったねと思う半分、さみしいよと心の中で呟いた。


 俺の前から誰も消えてほしくないのは本音。だけど、ばあちゃんの最期は自然と受け入れられた。


 わからない。


 何がよくって、何がよくないのか。

 上手く言語化できやしない。


『これから、それを見つけていこう……。言葉をきちんと紡ぐために』


 もう大切な人を失わないため。

 自分が納得できる言葉(こたえ)を紡ぐため。


 この体が消えるその時まで、俺は努力し続けるよ。

 


 ――そうして俺は、ばあちゃんがいなくなってからも努力をし続けた。

 鍛えて、祓って、眠って。鍛えて、祓って、救って、眠って……。


 そうしているうちに、百年という月日が流れた……――。

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