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第3話 死んでも努力

 テッテレーン!

 青天目零太郎(おれ)は〝ポルタ―ガイスト〟を獲得した!


 子供の霊が鉄骨を落とし、それらを数秒浮かせられた。

 俺は手をぐっぱっ、ぐっぱっと握開運動をした後、近くに落ちていた小石に手をかざしてみる。


 俺の霊体の奥にある熱い霊力を手に流し、そのまま小石に向けて放った。


『おおっ! やっぱり浮いたぞ!』


 小石はふわふわと浮き出し、さらには上下左右に、俺の意のままに動かすことができる。

 ジワジワと霊力が減っていっている感覚がするが、先の鉄骨ほどの比ではない。


 これらから推測するに、質量が大きいものをポルターガイストで動かそうとすれば、その重さに比例して霊力の消費も増すということだろう。


 幽霊がこの霊力という力の源を獲得していることはわかった。

 そこで一つ、俺の中で疑問が生じた。


 この霊力、使い切ったらどうなるんだろう?


 力がゼロになったら成仏するのか?

 この限られた霊力でやりくりするのか?


『……ま、どうせ一度は死んでんだ。成仏できんなら万々歳ってもんだぜ。試してみようじゃんかさ!!』


 俺は両腕を広げ、手を大きく開ける。

 目を閉じて集中力を極限まで高め、俺の回り、半径五メートル以内にある物体全てに意識を向けた。


 指先まで霊力を行き届かせ、纏う。

 スゥーっと息を吸い、吐き、目をかっぴらいてポルターガイストを発動させた。


「そいやぁッ!!」


 先ほどの鉄骨、瓦礫、ポール、看板、自転車、その他多数。

 それら全てが宙に浮き始める。


 霊体内の霊力はゴリゴリと減ってゆき、とうとう俺の中から熱の源である霊力が尽きる感覚がした。


『あっ――……』


 ブチッと俺の中で何かが切れた音がして、俺はそのまま地面に倒れ込んだ。



  #  #  #  #  #



 ――……おはよーございます。起床なり。

 どうやら、霊力を使い果たしても成仏はできないようだ。


 むくりと起き上がると、朝靄が立ち込めていた景色が一変、朱色に染まっていた。

 朝から夕方まで気絶していたらしい。


『霊力は回復してるな。……なるほど、〝母なる大地〟か?』


 霊体である俺は壁をすり抜けられるが、地面に潜ることができない。

 その理由は、俺の仮説では地面に霊力が込もっているから。


 つまり、この地面から霊力を吸い上げ、俺は再び復活したのかもしれない。


 そんな仮説が新たに生まれたのだが、もう一つ気になったことがある。

 怪訝な顔で、ペタペタと自分の体に触れた。


()()()()()()()……?』


 俺の霊体内にある熱。

 それが明らかに、最初よりも多くなっているのが感じられたのだ。


 仮説一、ポルターガイストの使用で霊力の容量は拡張される。

 仮説二、霊力を空っぽになるまで使い切ると拡張。

 仮説三、地面から吸い上げることで拡張。


 う~~む……。こればっかりは対照実験し、説立証させるしかなさそうだ。


『早速実験レッツゴゥ! ……っていきたいところだったのに、もう夜だ。()()()()が出てくる』


 太陽はすっかり山に隠れ、夜の帳が下りてきていた。


 朝や昼には比較的温厚な、ただ彷徨うだけの幽霊が出てくる。自分を含め、彼らを俺は亡霊と呼んでいる。


 対して黄昏時や夜には、人や他の亡霊を見境なく襲う幽霊、悪霊と呼んでいる奴らが出てくるのだ。


 悪霊が死因となったことから少々トラウマで、普段は空き家のクローゼット内で一人過ごしていた。

 だが、今の俺はポルターガイストが使える。手に霊力を纏うこともできる。


『うし! ()ってみるかぁ……!!』


 いつまでもビクビク震えながら隠れるのは性に合わない。

 このポルターガイストや霊力を込めたパンチが有効かを試そう。


 俺は息を顰めながら夜を待った。

 すっかり辺りが暗くなり、チカッチカッと点滅する街灯が灯り始める。

 ……と同時に、奴らも現れた。


『ア゛ァーー……』

『は、は、ぁ……ああぁぁああぁあああハハハハハ!!』

『誰かぁ~……ダれか~~……』


 唸り声を上げながら、目から血を流すという文字通りに血眼なスーツ姿の幽霊。

 笑いながら包丁を振り回す、長い髪を持つ女の幽霊。

 ただひたすら誰かを呼びながら徘徊する幽霊。


 こいつらは全員悪霊だ。

 特徴としては、みんな目がガンギマリ、自我がない。そして亡霊や人を襲う。


 鍵が欠けられた家には亡霊や悪霊が入れないらしいので、まだこの街に住んでいる唐揚げ屋のおばちゃんは大丈夫。……な、はず。


 なぜ悪霊が人や亡霊を襲うのかわからないし、なぜ俺のように理性が残っていないかも謎だ。

 時間が経てばああなるのかもしれんが。


『あぁあぁ! 見ィつけたァ~~!!』

『おっと、ぼーっとしすぎたか』


 誰かを探していた悪霊が、グリンッと三六〇度以上首を回転させて俺の存在を認識する。

 フクロウのようだな。そう思って、猛禽類のような目で俺を穿つ悪霊に対して構えた。


 小石を拾い、一旦これに霊力を込めてみる。

 ヘッヘッヘッと声を漏らしながら四足歩行で向かってくる悪霊に、その小石をぶん投げた。


『ギャヴッ! ギィイィイイイ……! い、ダ、イ゛ぃいい!!』

『おお、ダメージあるんだな』


 小石が激突し、悪霊は一瞬怯んだ。

 じゃあ次の実験だ。


 怒りに身を任せながら突進してくる悪霊に左手をかざし、ポルターガイストを発動させた。


『ギャッ!?』

『ははっ、幽霊も掴められんのな!』

『ヴぅううううう!!』


 ガシッと悪霊をポルターガイストで掴むことに成功し、動きを封じることに成功する。

 悪霊にもこれが効くのならば、戦いの手数が増える。


 最後に俺は、空いている右手をぎゅっと握りしめる。

 そこに霊力を込め、掴んでいる悪霊との距離を詰めた。

 がら空きなみぞおちに、渾身のパンチを叩き込む!


『が……ァ……』

『黒い塵になって消えた……。成仏、というか消滅? 除霊ってやつか』


 霊力パンチも有効で、悪霊は塵になって消えていった。


 今の戦闘で霊力の二割ほどと言った具合か。

 そう思っていたのだが、その失ったはずの二割が一気に回復……いいや、内包している霊力が十一割になる感覚がした。


『ッ! な、なんだ今の!? なんか、体の中に流れ込んできたような……』


 これはまさか……。

 よし、もう悪霊を一体倒して確認を取ってみるか。


 俺は笑いながら包丁を振り回している女に向かって小石を投げ、先手を打った。


『痛いワぁ……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!』

『うおっ!? 危ねぇ!』


 包丁を投げつけてきてきやがった!

 いきなり物投げるとかどういう神経してんだ!? ……小石投げた俺も同類じゃんよ……。


 そんなことを思っているうちに、女の悪霊を距離を詰めて包丁を振り回す。

 所詮は素人が武器を振り回している程度。

 生前、護身術や剣道なども嗜んでいた俺には効かない。


 そんな慢心が壊されるのは一瞬だ。


『あはァ!!』

『いッ!?』


 女の腕が木の枝のようにボキボキとあらぬ方折れ曲がり、俺の片腕に包丁が突き刺さろうとする。

 瞬時に防御態勢を取ると同時に、無意識のうちに霊力も込めていた。


 包丁は俺の皮膚に触れたが、突き刺さることはなく弾かれた。


『アッ!?』

『ッ……霊力鬼すげぇや! 防御までできんの――ねッ!』

『ウッゥゥ……――』


 拳を放ち、悪霊を祓う。


 弾かれたのは、俺が霊力を込めていた部位だ。

 込めれば悪霊に効くし、防御もできる。


 この戦いでわかったことがたくさんある。

 中でも一つ、大きな収穫があった。


『やっぱりな。悪霊を倒すと()()()()()()()!!』


 失った霊力が回復、それどころか上限を上回ったのだ。

 霊を倒せば強くなる。これで、悪霊が亡霊を襲う理由が分かった。


 きっと、生きている人を倒したら……さらには()()()()、霊力がもっと増えるのだろうなぁ。

 ……ま、俺はそんなことする気は毛頭ないがね。


 さて、それじゃあ――


(――殺気ッ!?)


 悪霊を倒して一息ついていたその時、背後から先刻の悪霊と比べ物にならないくらい強い殺気が飛んでくる。


 俺は急いで振り向いて、即座に防御態勢をとって霊力を込めた。


 防御を取ったのだが、それでも衝撃が体に響いてくるほどの重い一撃が叩き込まれた。

 後方に数メートル吹っ飛ばされる。


『ぐっ! こいつ……ヤバイ……!!』

『――残業……部長……申シ訳ごザいま……残業……会社……』


 一番最初に目に入った、目から血を出すスーツ姿の悪霊だ。

 パワーも、アジリティも、()()()()()()()だ!


『毎日残業毎日残業毎日残業! 会社、爆発シてくれェえええ!!』

『~~ッ!!』


 高速タイピングを打つような素早い拳のラッシュが止まらない。

 ガードをしていたらじり貧だ。

 打開しろ。

 何とかしろ!


『《ポルターガイスト》!!』

『ッ!』


 壊れかけの壁面看板をポルターガイストで落とし、サラリー霊にそれをぶつけた。

 一瞬怯んだ。拳を叩き込むのは――今ッ!!


『はぁあああああ!!』


 回復したての全霊力を拳に込め、それを相手に炸裂させる。

 入った、完全に。


『残、業……スミマセン……申し訳……。か、帰り、タイ……』


 その悪霊は、ボロボロと赤い涙を止めることを知らない。

 霊体は次第に塵になっていくが、止まる気配がなかった。


『お前はきっと、さっきみたいに人や亡霊を襲ったんだろうよ。許されやしねぇことだ。けどもう……もう、休め』

『ぁ……――ありガ、とう……』


 サラリー霊は最後に、赤くない透明の涙を流して塵になった。

 悪霊。生前の強い怨念で強くなるのかもしれない。


 あまりにも危険だ。

 もし迷い込んだ生きた人間がここに来たら……。考えただけでも恐ろしい。


 悪霊も悪霊だ。

 虐げられて、怨念に呑まれて、したくない殺戮をし続ける人形となっている者もいるのだろう。


『……また、霊力が増えた』


 俺はどんどん強くなっていけるんだろう。

 目的のない強さを求めるのは危険だ。

 けど、たった今、目的ができたよ。


『悪霊から人を守る。苦しんでいる悪霊を(はら)う。

 そのために俺はもう一度――()()()()()()()()()()()()()!』


 唐揚げ屋のおばちゃんも、苦しむ悪霊も、俺の手が届く範囲(このゴーストタウン)で救ってみせる!

 やってやらぁ……。


 絶対に、強くなってやる!!

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