第14話 帝都祓魔学苑入学試験①
山道を歩き、とうとう街へと到着した。
「お、おお~! 人間が密集してる光景を見るのは百年ぶりだ!」
「発言が人外すぎるからやめなさい。バレたらどうするのよ」
俺が今までいたのは、過ぎ去った季節に取り残されたゴーストタウン。
きちんと文明が進んでいる街に出てきたのは本当に百年ぶりだ。
見るに、それほど近未来化はしていなかったが、やはり百年前とはどこか雰囲気が違って見えた。
フクロウのように、目を輝かせながらキョロキョロ辺りを見渡す。
恥ずかしいからやめて頂戴! と言われるかと思ったが、隣でくすっと笑っているのが目に入った。
「そろそろ迎えの車が来るから、それに乗って一旦東京の借家に行くわよ」
「了解! いやー、にしてもやっぱ娑婆の空気は最高だぜ!」
「はいはい。はしゃがないの」
しばらくすると黒塗りの車がやってきて、スーツを着た人物が扉を開ける。
もしかして美紅ちゃんって、結構すごいとこの子なのだろうか?
車内でこれからの綿密なスケジュールを彼女から教えてもらうことに。
「その入試の受験日っていつなんだ?」
「明日よ」
「…………すまん。どうやら耳クソが詰まっててなんも聞こえなかったわ。もっかい言って?」
「琴弧の耳にクソなんて詰まっているわけないでしょ! いい加減にして頂戴!!」
「アイドルはおならしないみたいな理論じゃんかよ! って、マジで明日なの!?」
「ちゃんと聞こえてるじゃない! 耳クソが詰まってると言う発言を撤回しなさい! ちょっと! 聞いてるの!?」
え、明日!? 明日受験日なの!?
何も準備してないし、祓い屋界隈がどんな感じなのかも全く知らないペーペーだぞ俺。
落ちたら三年後まで待たなきゃいけない。
そんなの待っていられるの? いやムリムリ!
「まあ安心しなさい。今日は徹夜でみっちり現代についてを教えるわ。それに、あなたの受験方法は推薦入試よ」
「推薦入試?」
「えぇ。私は特別入試枠だから、一人だけ推薦して受験させられるの。本当は琴弧を推薦するつもりだったけど……。
だから筆記試験はなくって、霊力検査・実技・浄魂の三つだけよ」
「ジョーコン?」
「浄魂は悪霊とかを祓うことの総称ね」
筆記試験があったら確実に落ちていただろうが、実技とかならまだ希望はありそうだ。
それにしても、推薦入試か。懐かしいな。
生前も俺は大学に指定校推薦で入学したが、普通受験の人たちからズルいと言われたなぁ。
まさか百年越しに再び受験することになるとは思いもしなかった。
「でも気を付けなさいよ。推薦入試の合格率は三十パーセントほどだから」
「ダメじゃん! 俺落ちちゃうじゃん!」
「落ちたらその程度の亡霊だったってことでしょ。精々琴弧のために気張りなさいよ」
「そりゃもちろん全力を尽くすけどさぁ……」
多くの優秀な祓い屋が排出されたと言われている帝都祓魔学苑。
俺みたいな百年前に取り残されて、亡霊な俺が受かるのだろうか?
不安を募らせながら、車に揺られた。
# # # # #
――翌日、受験日当日。
俺は徹夜でみっちり現代の情勢やらなんやらを頭に詰め込み、学園へ向かっていた。
一晩美紅ちゃんと同室で勉強をさせてもらったが、はっきり言って地獄であった。
深夜、男女二人きり、いい雰囲気……とかには一切なっていない。
スパルタ教官のようにビシバシ叩き込まれた。
とてもありがたかったが、生前の受験の地獄を思い出して泣きそうになってしまったよ。
まあその甲斐あってか、今の俺は自信に満ち溢れてるぜ!
何も勉強していないのにテスト直前で「俺、いけんじゃね?」となるあの現象である。
「零太郎、はいこれ。仮受験票」
「さんきゅ。って、仮?」
「そう、仮よ。真の受験票は入り口で貰えるの。理由はすぐわかるわ」
「……? はぁ」
美紅ちゃんから渡されたお札のような受験票。〝丙ノ○四七番〟と達筆に書かれている。
なぜ〝仮〟なのだろうか。
そんな疑問を抱えながら歩き続けて数分、学園に到着した。
入口は雲を貫くほどの大きさをした鳥居で、奥には荘厳な和を軸とした建物が鎮座している。
そして、大量の人が底には溢れかえっていた。
「すげぇ人の数だ! まるでゴミのようだ!!」
「何それ。私知らないわ」
「じぇ、ジェネレーションギャップ……ッ!?」
「あなたのジェネレーションは百年前だしギャップが合って当然でしょ」
「じゃあ今度一緒にそれ見ようぜ、めっちゃ面白いぞ!」
「……まあ、合格したら考えてあげなくもないわ」
ツンデレ美紅ちゃんとの約束をしながら、受験生が並ぶ列の最後尾に並ぶ。
しばらく談笑しながら待っていると、俺たちの番が回ってきた。
「それでは只今より、霊力検査を始めます。仮受験票はお持ちですか?」
「ええ」
先に並んでいた美紅ちゃんが受付の人に受験票を手渡す。
それとトレードするかのように、受付の人から一枚のお札を渡されていた。
「零太郎、これが帝都祓魔学苑受験、最初の難関である第一次試験〝霊力検査〟よ」
「これで霊力を検査すんのかー。でもなんで難関なんだ?」
「そりゃもちろん、規定量未満の霊力だったら問答無用で落とされるから」
「えぇ! そうなの!? ……あっ、だから仮受験票なのか!」
最初の霊力検査で落ちるのが大勢いるから、まずは仮受験票でこれを検査する。
合格だったら真の受験票を渡すということなのだろう。
最初っからフルスロットルだな、帝都祓魔学苑。
ちらりと横を一瞥してみると、阿鼻叫喚している受験生たちが目に入った。
「ふぬぬぬぬぬ!」
「燃え上がれ俺の霊力ぅうううううおおおおあああああああああ!!!!」
「わっ、規定量越えた~っ♪」
「チクショウ! また一次試験で落ちた!!」
「フッ……ここで落ちる雑魚どもが……」
「また数年後くるしかないな」
手に持つお札からは、水が出たり炎が出たり、オーラが出たりと。
十人十色の反応をしていた。
反応を示した後は、お札が焦げて消えていくものや残るものと別れている。
「美紅ちゃん、このお札って?」
「これは人が持つ霊力の量や性質を確認する護符よ。炎の適性がある術式なら炎が出て、雷の適性がある術式は雷が出るわね。霊力量が多いほど反応が大きくなるわよ」
「へぇー! ちなみに霊力量ってどれくらいあればいいんだ?」
「護符が焦げてなくなれば規定量越えで合格ね」
美紅ちゃんはそのお札、もとい護符を強く握り、霊力を込めた。
バチチッ……バリバリバリバリバリッッ!!
護符から紅の稲妻がおよそ五十メートルほど天に昇った。
あんなにも騒がしかった受験会場が一瞬静寂に包まれる。
「やべええええ!?」
「なんだ今の霊力!」
「あ……霹靂家の鬼人、霹靂美紅だ」
「成程、あの家の者なら納得だ」
「いや、それでも膨大過ぎじゃんね?」
「今年は倍率ヤバいじゃねぇかよォ~~っ!」
美紅ちゃんは振り向き、「ふっ」と鼻で笑って見せた。
こんなもんよと言わんばかりのどや顔で可愛い。
「あ……き、規定量余裕の合格でございます! 真の受験票を受け取りください!」
「ありがとうございます。……ほら、次は零太郎の番よ。ちゃちゃっとやっちゃいなさい」
そう言って俺を急かす美紅ちゃん。
今のを見せられて次にやるのは中々酷なものじゃあないか?
ま、それほど目立たなければすぐスルーされるか。
前に進み、受付の方から護符を受け取った。
それに力を込める。
刹那、世界が一瞬真っ白になった。
その直後。ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!!
爆音とともに、雲まで届くほどの蒼い炎の柱が吹き上がる。
一瞬で周囲の地面を凍て尽かせ、受験生を次々と尻もちをつかせた。
さらに追い打ちをかけるように、雲に届いた氷炎の影響か雪まで降り始める。
(ん~~…………。やっべ、やりすぎた! あははっ!!)
天を仰ぎ、俺は乾いた笑いを漏らすのであった。




