第12話 テン、ソウ、メツ
バチッ! バチチチチッ!!
「よっ! ほっ! そいやーー!」
横に降り注ぐ紅蓮の雷。
琴弧ちゃんの友人である霹靂美紅。彼女の術式混じりの弾丸を避けながら、俺は術の分析をしていた。
紅い稲妻。
最初はただ威力が強い雷だと思っていたが、どうやらそうじゃなかったらしい。
「《時雷》!」
「ぎゃーーッ!? あ痛たたたた!」
銃弾が撃ち込まれた地面から赤い稲妻が走り、近くにいた俺の体にまで流れてくる。
体に流れてきた稲妻は、中で反発して血管を破裂させた。
どうやらこの稲妻、〝斥力〟が発生している!
引力とは反対の斥力。これによって、物体に近づいた雷撃は反発して威力が倍増しているんだ。
体内に流れれば内側で反発する。よって、霊力で守らなければ内部が一瞬でぐちゃぐちゃにされかねない。
しかも、静電気を纏うように斥力を体に纏っている。
だから投擲もすぐに跳ね返されてしまうのだ。
雷撃だけでさえ強いのに、なんでそんなチート能力トッピングしちゃってんだよ!
ポルターガイスト無しじゃ相当辛いんだが……。
「これ以上琴弧の身体を傷つけたくないのに……ちょこまかと!」
「俺だって琴弧ちゃんに傷ついてほしくないからちょこまかしてんだよ!」
寺の敷地内を駆けまわり、雷撃の嵐を避けて攻撃の隙を伺う。
美紅は鐘楼近くまで移動し、地面に横たわっている鐘に術を使ってこちらまで吹き飛ばしてきた。
「おいおい! どんな馬鹿威力してんだその稲妻!」
同じように地面に落ちていた、鐘を突いて鳴らす棒に手をかける。
全身に霊力を巡らせ、爆発的な馬鹿力を発揮して鐘に向かってぶん投げた。
ボーーンッ!!
空中で鐘が鳴り響き、ビリビリと空間が揺れる。
「~~っ! うるっさいわね……!」
やはりな。
彼女が纏う稲妻、それを跳ね返せるのは物体のみ。音とかは跳ね返せない!
……いや、だったらなにができんだよ!?
俺の物理的攻撃は通じない。霊力を纏った拳なら多少は効きそうだが、おそらくこっちの腕が早々に破壊される。
音波や他の方法で倒す手段すらもありゃしない。
あれ、負け戦ってやつでは?
「そろそろ負けて祓われてちょうだい。《迅雷》!」
「速――」
彼女の脚が紅く光ったと同時に、俺の背後まで一瞬で移動してきて渾身の蹴りが入る。
ガードは間に合った。だが、あまりにも威力が高すぎてほぼ無意味だ!
脚に斥力を発生。反発力を利用した高速移動!
さらに蹴りの威力アップ!? 強すぎないかこの子!
木々をべきべきとなぎ倒しながら吹っ飛ばされ、終いには池の中へ落とされる。
(あ~~頭痛いし、このまんまじゃ負ける……! 何か、何かを――あれ? 頭、蹴られてないのになんで痛いんだ?)
ズキズキと異常なほどに痛む頭。
蹴られても稲妻を流されたわけでもない。なのに猛烈に激痛が走っていた。
同時に、バラバラな単語が頭におぼろげながらに浮かんできている。
「王手よ」
「…………ソ……ツ」
「? 何ぶつぶつ言ってんのよ」
俺に追いついた美紅は、池のほとりで水の中に片足を突っ込んでいた。
この状態で稲妻を放出されたら確実に負ける。かと言って逃げることも難しい。
だが、あと少し。
もう掴みかけてるんだ……!
「テ……メツ……ソウ……メツ。テン……ソウ……メツ……。――テン、ソウ、メツ」
「はぁ、もういいわ。さようなら」
紅い閃光とともに、池に稲妻が走る。
高電圧の稲妻が走ったことより、池の水は瞬間的に蒸発して爆発が引き起こされた。
池の中にいたらただでは済まない。
死を避けられない。
……はずだった。
「テンソウメツ……ようやくわかっっちゃったぜ。俺の術式の名前がよぉ!」
「な、なんで、生きて――!?」
「俺の術式――【天蒼滅】!!!」
ゴォオオオオッ!!!!
刹那、俺を中心に蒼い蒼い火柱が立ち上がる。
その炎は周囲を焼き尽くすのではなく、周囲を凍てつかせていた。
俺の足元の水は全て凍っており、絶縁体となって感電死せずに済んでいる。
「まさか……氷炎!?」
「えっ、俺氷炎使ってんの!?」
「なんで本人が知ってないのよ!?」
「だって初めてなんだもん……」
蒼い焔は拳と口から噴き出ていた。
口から出た分は首元に巻き付き、マフラーみたいになっている。
クソかっこいい!
(最悪……。あいつの術式が覚醒した……! 術式無しで私と渡り合えていたことから鑑みるに、順当に成長すれば誰も勝てない化け物になる!!)
「さ~~て美紅ちゃん。宴も酣だが、そろそろ最終局面を奏でようぜ!」
拳を構え、霊力を拳に込める。
そして、蒼い焔を纏う拳で正拳突きをした。一直線に蒼い焔の道が出来上がり、瞬時に地面や木々を凍らる。
「っ!?」
「これは……あんま人に向けたくないな……。手っ取り早く終わらせよう!」
腕を薙いで、周囲に氷炎の壁を作り上げた。
真正面から激突するのは避けたい。お互いズタボロになる未来が見え見えだからな。
隙を突いて、一瞬で勝負を決める!
(青天目零太郎……! 氷炎に紛れて逃げた? いや、気配はある。戦うつもりね。隙を突くつもりみたいだけど、こっちから仕掛けさせてもらうわ!!)
美紅は地面に手を付け、術を発動させた。
「《瀾雷》!!」
美紅を中心とし、紅の雷が波のように広がってゆく。
地面が凍っているという導電性が低い状況。人間の体の六十から七十パーセントは水。
人体は電気を通しやすい導体なので、人体に触れた瞬間に強く雷が流れる。
よって、居場所の特定が可能……そう考えているのだろう。
バチンッ!
「そこね――!!」
強く音が鳴った方へ銃弾を放った。
が、そこに俺はおらず、あったのは……。
「つ、《《氷柱》》!?」
「――〝先端効果〟。尖った先に雷が落ちやすいという、避雷針と同じもんだ!」
「しまっ――!」
俺が池の水で作った氷柱。
それをほんのり溶かして水を纏わせておけばあら不思議。雷が引き寄せられてらぁ。
氷柱とは真反対の方から俺は飛び出し、氷炎をぶつけた。
もしかしたら術も跳ね返すかもしれないが、冷気は跳ね返せないはず!
「ぅ……! それでも、負けるわけには……いかないのよ!!」
銃を構えた片腕を掴み、もう片方の腕で握りこぶしを作る。
冷気で彼女の体が凍えて霜ができている。斥力雷纏いもできていない。
拳を叩き込めば勝てる!
そんな時、頭の中に何かが流れ込んできた。
これは誰かの……美紅の記憶?
〈ねぇねぇ美紅! 今日の学校帰りさ、映画見に行こうよっ!〉
〈あのさ、琴弧。あんた赤点取ってたくせによく遊び行けると思ってるわよね〉
〈うぐっ!? ま、まあね? 私、青色の次に赤色好きだから!〉
〈テストで取る赤は不名誉なのよ! 全く……勉強教えてあげるから、今日は図書館行くわよ〉
〈りょーかい! 私はもう美紅がいないとダメだよ~♡〉
〈とっとと自立してほしいんだけどね……〉
琴弧ちゃんが持っていると言っていた〝人の魂に触れて記憶を読み取る術式〟ってやつなのだろう。
仲がとてもよかったんだと、一瞬の記憶だけでもわかる。嫌というほどに。
「私、は……私は、琴弧がいないとダメなの……っ!! だからっ、琴弧の中からいなくなってよ!!!」
涙をボロボロと零しながら、紅い稲妻を放出して人間スタンガンになっていた。
「嫌、だねェ……! 俺は君のように昔からの付き合いじゃないが、同じように琴弧ちゃんのことを大事に思ってる!! 同じように、戻ってきてほしいと思ってる!! だからこそ――!!」
氷炎を纏った拳を握りしめ、振り上げた。
そして、それを――放った。
「っ! …………あ、れ?」
「だからこそ……話し合いが必要だと思ってるんだ……」
俺の拳は美紅の顔の横に突き出して、彼女の背後が炎の海になっている。
殴っていはいない。殴ったらきっと、琴弧ちゃんに怒られてしまう。
「拳で語り合うってのもいい案さ。けどそんなの、琴弧ちゃんが望んでるとは到底思えねぇんだ。
俺が知っていること、起こったこと、全部話すよ。だから、お願いだ。琴弧ちゃんの大切な人と、もう戦いたくない……」
「っ……! う、ゔぅぅ~~っ!! 嘘ついたら、絶対地獄に堕とすからぁ!!」
「ああ、そん時は存分に落とされてやらぁ」
稲妻は収まり、代わりに雨が降ってきた。
悲しみはもちろんあるが、どこか晴れやかな……。
天気雨だった。




