第11話 紅く轟く
ということで。
俺は女の子になったぞッ!!
「母さん、父さん。弟の一郎、妹の二胡。そんでポチコロワン太におばちゃん……。信じられんかもだが、俺ぁ今日から女の子だぜ」
ゴーストタウンから出た俺は、水たまりに映る自分の姿を見て決めポーズをしてみた。
うん、やっぱくそ可愛いな琴弧ちゃん。
美少女はどんな行動しても可愛いに帰結するから羨ましい限りだ。
それにしても、俺の人生及び霊生が激動すぎやしないか?
家族が殺され、波乱万丈な学生生活を過ごし、悪霊に殺され、悪霊を祓い、おばちゃんを見送り、百年鍛え、美少女から告白され、憑依TSをする……。
ざっと並べてみただけで眩暈がしそうだ。
「これからどうすっかな……。俺も祓い屋になれんのかね。ってかなれなきゃ困る!」
俺の最終目標は、琴弧ちゃんの魂を元に戻すこと。
そしてできれば、俺も蘇ること。
ありふれた平凡な生活を送っていても、解決法は出ないだろう。
ならば、魂やら霊やらに対しての知識を多く有している祓い屋になるべきだという考えに至った。
今の俺なら、大抵の悪霊もポルターガイストで祓えるから大丈夫!
そう楽観的に思っていた時期もあった。
「ポルターガイスト、琴弧ちゃんの体に入ってから使えなくなったんだよなぁ……」
俺が小石に手をかざしても宙に浮かず、シーンと静寂を貫いている。
小石の癖に舐めた顔しやがって。
ポルターガイストは使えないものの、霊力による身体能力向上や防御、霊力の放出はできる。
悪霊や野蛮な奴に絡まれたらこれを駆使するしかない。
「そういえば琴弧ちゃんがあんなこと言ってたな」
二人で過ごしていた中で、彼女が発言したことを脳内で再生し始めた。
〈――強い幽霊はポルターガイストが使えますが、些細なきっかけからそれが使えなっちゃうんですよ〉
〈え、使えなくなんのかよ。弱体化していくってことか?〉
〈いえ! ポルターガイストが使えなくなったら、〝術式覚醒〟が近いという兆しです!〉
〈なんじゃそら! かっこいいな!〉
〈正式名称は〝霊氣術式〟。ゲームとかで言うスキルですよ。雷が出せたり、水の手裏剣出したり!〉
〈えーー!? 俺も早く覚醒してぇ!〉
〈術式覚醒したら、脳内にその術式名が浮かんできます。その名を叫んだら使えますからね!〉
琴弧ちゃんの言うことが正しければ、もうそろそろ俺の術式とやらが覚醒する……はず。
しかしながら、脳内には何も単語が思い浮かんでこない。
もう少し時間を置いた方がいいのだろうか?
うんうんと悩みながらしばらく山道を歩き続け、物理的にも精神的にも疲労が溜まってきた。
ここいらで休憩していこう。
「お、そういやここに寺あったな。懐かし~」
俺が幼少期に住んでいたこの街の裏山。
そこには、長い長い階段を上った先にある寺があるのだ。
階段が相当苔むしているが、崩れてはいなさそうだ。
俺は霊力を体に流し、長い長い階段を一気に駆け登る。
寺は崩れていないが、手入れは行き届いていなさそうだ。人っ子一人気配がない。
鐘楼も壊れて、大きな梵鐘が横たわっている。
百年経って忘れられたのだろうか?
「腹が減った感覚も久しぶりだな。飯食うべ!」
お参りをした後に境内に座り、ポケットに入っていた携帯食を取り出した。
うん、パッサパサでほぼ味がしねぇ。不味くはないが美味くもない。
百年振りの食事が携帯食って……。もっと美味いもんを早く食いたいもんだ。
携帯食で腹を満たし、手水舎から柄杓で水を飲む。
管理されなくなった手水舎の水を飲むのはどうかと思ったが、背に腹は代えられない。
そんな時、階段から誰かが上がってくるのが横目で見えた。
(参拝客か? にしてはなんか……アニメのキャラクターみたいな格好してんな)
へそ出し軍服に、頭からツノが生えている。
コスプレイヤーさんが撮影に来たのかもしれない。
あれ、なんか……コスプレイヤーさんこっち近づいてきたんだけど。
「えーっと、こんにちは。いい天気だな!」
「えぇ、こんにちは。あなたはこんなところで何をしていたのかしら」
軍帽を深く被っているが、凛々しい美形なのがよくわかる。
声のトーンが変わることなく、鋭い紅い瞳で質問を投げかけられたので、たじろぎながら答えた。
「ちょっと歩き疲れたんで、一休みをしてたが……」
「そう。ところであなた、名前は何というのかしら」
「俺は青天目零太郎だ。よろしく頼むぜ!」
「……ふぅん。私は霹靂美紅よ」
クール系でぶっきらぼうな雰囲気を纏っていたが、案外気さくな子なのかもしれない。
なんだか彼女からは懐かしい気配がする気がするし、仲良くなれるかも?
浮かれてそんなことを考えていると、彼女の口から爆弾が飛び出てきた。
「第弐等級の祓い屋。そして、あなたが入っている肉体の持ち主――天歹琴弧の友達よ」
「――……え?」
「琴弧を、返せ……!」
俺に銃口が向けられた。
偽物の銃? いや、それよりも今なんて言った?
琴弧ちゃんの、友達……!?
今の俺、何の説明もしなかったら体を乗っ取った悪霊じゃねぇか!
なんとか説明を――!
その考えに至ったものの、戦いの火蓋は銃声とともに切り下された。
「あッぶねぇ!」
「チッ!」
引き金を引くと同時に銃声が轟き、弾丸が俺の顔の横を通り抜ける。
銃弾は地面を抉る。反射的に避けれたが、当たっていたら致命傷だった。
一旦話を聞いてもらわなければ……。そんためには、その物騒なモンが邪魔だ!
足に霊力を込め、拳銃を握る彼女の手に向かって蹴りを決め込む。
ドウッッ!!
「なッ! 結構本気で蹴ったつもりだったんだが!?」
「私を舐めるな、悪霊が……!」
あちらも同じように蹴りして、互いの脚が衝突し、衝撃波で落ち葉が舞う。
互角か、はたまたそれ以上か。見た目の割にかなりの怪力らしい。
「一旦話し合いしてぇんですけど~~!?」
「あんたと語り合うことなんて一つもない! とっとと体が引きずり出して、琴弧を返してもらう!!」
「その琴弧ちゃんについての話なんだよ!!」
「黙れ! 琴弧のことを何も知らないくせに!!」
一旦距離を取り、息を整えた。
これは、とてもじゃないが話し合える雰囲気ではなさそうだな。
頭に血がのぼっているらしく、俺の話を聞く気は皆無だ。
倒されたらそのままぶっ祓われそうだ。
祓われたら中にいる琴弧ちゃんもどうなるかわかったもんじゃない。
……倒すしかないみたいだな。
「あんたが蒼ノ怪の可能性もある。だから、全力でいかせてもらうわよ」
「アオノケ……? よくわからんが、こっちも負けるわけにはいかないでな」
「【霹靂劈空術】……《穿雷》!!」
「ッ!?」
先刻とは比べ物にならない速度の弾丸が放たれる。その弾丸には、紅の稲妻が纏っているように見えた。
紅く轟き、俺の背後では木々に巨大な風穴が空いている。
弾丸のようなものを撃ってくる悪霊はゴーストタウンに何度か現れていたため、辛うじて避けることができた。
(な、なんだ今の赤い稲妻! もしかして今のが〝術式〟ってやつか!?)
紅蓮の雷を操る術式なのだろうか。
なんて殺意の高い術だ。
俺が自分の霊力を全力で解放したら余裕で勝てるだろう。
だが、そうすれば琴弧ちゃんの肉体が耐えられずぶっ壊れると直感で分かっていた。
かといって肉体から出て戦えば、ちゃんと元に戻れるともわからない。
敵キャラが仲間になったら弱体化するみたいな展開だ。
この状態で俺は、あの子に勝つしかない……!
「やってやんよ。俺の……いや、俺たちの初陣だ! きっちりかっきり勝利してやっから、そん後お話しようぜ! 霹靂美紅ちゃん!!」
「気安く私の名前を呼ばないでもらえるかしら! お前は……私が必ず祓う! 青天目零太郎!!」




