第10話 賽は投げられた
――零太郎が結界を破壊した同時刻。
とある建物内では阿鼻叫喚となっていた。
ウーーッ! ウーーッ!
けたたましいアラーム音が室内に響き、建物内にいる人を慌てふためかせる。
「なんだ! 何が起こった!?」
「こんなっ、こんなの現実なのかよ」
「あのゴーストタウンは安全確認されてなかったの!?」
「いや、だいぶ昔にされたはずだが……」
「海外派遣中の職員を全員連れ戻せェ!」
「今〝災度・虚〟の霊が出現するだなんて……ッ!!」
複数のモニターに映し出されているのは、マップの画面だった。
その場所は、先ほどまで零太郎がいたゴーストタウンである。
そして、この建物は世界祓魔機関・極東本部の本拠地だ。
各国と連携し、世界で暴れ回る霊の対処に当たる祓い屋を派遣したり、霊に関する会議や条例を決めたりする機関のことである。
そんな、霊に関する知識では右に出るものはない。そんな機関の職員たちが狼狽している。
「あのー、先輩。一個聞いていいっすか?」
「なんだ! 今忙しいんだ!」
「すけーる、ってなんすか?」
一人の職員が、そんな質問を投げかけた。
質問を受けた方は、あんぐりと口を開けてコイツマジか……という表情をする。
「え……お前、そんなことも知らずにここに来たのか!?」
「いや、自分臨時の非常勤なんで。ほとんど知らないっす」
「はぁ……。災度ってのはだな、霊の強さの尺度を示すものだ。一番弱いのは災度・陸、一番強いのは災度・壱だ」
「はぇー。あれ、でも今皆さんが叫んでるのってなんなんです? 壱が最大なんすよね?」
「災度は、霊力測定装置で観測されたもので決定される。だが稀に、観測不可能なほどの霊力を持つ霊が出現することがあるんだ。それが災度・虚の霊……!!」
災度・虚の霊が出現したのは、観測史上十回目である。
本来であれば冷静に対処に当たるはずなのだが、今回ばかりはそうはいかない理由があった。
「なんでこんなに慌ててるんすか? 今まで何回も災度・虚の霊を対処してきたんすよね?」
「確かに対処してきたが、それらのほとんどは時間経過とともに災度・虚となった霊だ」
「……今回現れた災度・虚はいきなり現れた。ってのがヤバいんすね」
「ああ。自分の膨大な霊力を隠せるほどの技量や狡猾さを兼ね備えている〝異常霊〟だ。
国家間で共同し、祓うしかなさそうなほどヤバイ霊の可能性が高い!」
ダラダラと汗が噴き出て、焦りが隠しきれていない。
いきなり現れる霊の災度は通常、弐までである。
しかしあがら、今回は零太郎が霊力を隠し続けていたことにより、いきなり現れた災度・虚と確認されていた。
「災度・虚は皆等しく――国家転覆級の力を有しているからな……!」
「まじっすか!? で、でも、人に害をなす悪霊とはまだ決まってないんすよね!」
「……これほどまでの力を持った霊だぞ。一体、その力の矛先は何に向かうと思う」
「ッ……。で、でも俺は、その霊が善霊なことを信じるっすよ」
「我々全員、心の底からそう願いたい……」
緊張感が張りつめる。
そんな時、扉が蹴り倒される勢いで開けられて職員が声を荒げた。
「と、遠くからだがその霊を目撃した人物がいたらしい!」
「何! 本当か!? その霊はどんな見た目だった! 今すぐに警報を出すぞ!」
「それが遠くからだったらしく……〝オーラがとにかく蒼かった〟とだけでした」
「具体的な容姿の情報は無し、か……。よし、ではその霊を〝蒼ノ怪〟と命名する。蒼ノ怪の捜索を始めるにあたり、近くにいる祓い屋に通達せよッ!!」
「「「はいッ!!」」」
威勢よく返事をし、青天目零太郎こと蒼ノ怪の捜索が開始する。
# # # # #
プルルルルッ。プルルルルッ。
電話のコール音が鳴り響く。三コール目が鳴る前にスマホを取り出し、耳に当てる少女。
「はい、もしもし」
『あ、もしもし。こちら世界退魔機関の田口です。緊急依頼です! 第弐等級の霹靂美紅様!』
電話越しに名を呼ばれるその少女、美紅は、ふぅと息を吐いた。
その吐いた息の中には、苛立ちも孕んでいた。
へそ出しの黒い軍服で身を纏い、外套を羽織り、軍帽を被る少女。
琴弧と同じような少女に見えるが、《《頭から二本の角が生えている》》という相違点があった。
鬼のように真っすぐに伸びる角が、被っている軍帽を貫いている。
「私、今日は忙しいって伝えたわよね?」
『申し訳ございません。ですが本当に緊急なんです!』
「……まさか、災度・壱でも顕現したのかしら」
『いえ……その上の災度・虚です……!』
「なっ!? それは……緊急事態ね。わかったわ。詳しく聞かせて頂戴」
美紅は蒼ノ怪についての詳しくを聞き、スマホのアプリを開く。
そこにはゴーストタウンの位置情報と、蒼ノ怪にわかっている現在の情報が記載されていた。
「はぁ……友達を探しに来たっていうのにどうしてこんな目に……」
祓い屋、上から三番目の実力を持つ第弐等級である霹靂美紅。
そんな彼女は私用でゴーストタウン付近へとやってきていた。
それは、数日前に行方不明となった同級生の友人。
その友人の正体。それは、
「ねぇ、あなたは一体どこ行ってしまったのよ――琴弧」
琴弧の唯一の友人。
身体を乗っ取った零太郎と彼女との衝突は、必然的なものである。
――既に、賽は投げられていた。




