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静寂の魔導姫 ───引きこもりを望んでいた最強少女は無詠唱魔術で護衛する────  作者: おもち


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第22話 早い再会 (一章完)



小さく欠伸をしながら、授業を聞いているリーゼリアは昨日──いや、今日の夜中のことを思い出していた。



* * *



あとあと、スピカが去って10分後程度にリーゼリアの手紙を読んだフラムがやってきた。寝る前だったようで、いつもの軍服姿ではなく、寝巻き姿という少し珍しいフラムだった。


「……こんばんは、フラムさん」

「こんばんは、リーゼリア。そこで死んでいるのが例の侵入者か」

「……はい。詳しく、聞き出す前に、死んでしまったので、正確なことは言えませんが、アルスフィア帝国が、関係しているかと」


少し時間が経ち、いつもの話し方に戻ってしまったリーゼリアだったが、死んだ男とスピカからアルスフィア帝国の関与を推察としてフラムに話す。それを聞いて、フラムは眉間に皺を寄せた。


「それが事実だとすると、面倒なことになるな。国内であれば、問題なく対処できたわけだが、国外ともなれば些か勝手が違う」

「……そう、ですね。フラムさん、学院に、アルスフィア帝国の人って、いるんですか?」

「なぜ、そう思ったんだい?」

(……?)


いつものフラムならば、リーゼリアの質問に対して返答しているはずなのに、今回は質問返しをしてきた。そのことにリーゼリアは内心首を傾げるも、男が話していたことをフラムにも話した。


「……アルスフィア帝国の、皇家の血筋って、話していたんです。学院にいるとまでは、はっきりと、言っていませんでしたが」


けれど、あの死んだ男の口ぶりからして、学院内に目当ての人物がいることを知っていたのだろう。そしてそれを確固たる事実とするために、学院に侵入し、魔術を発動させて、目的の人物を特定しようとした。


男はいわゆる捨て駒という立ち位置だった可能性が高いが、それでも制約の魔術で男を縛るほど、男が話したことは向こう側にしてみれば機密事項に該当するのだろう。だから、学院にいるであろうアルスフィア帝国に関係する人物を探し出すことが謎を解明する足がかりになるはずだ。


そう思い、フラムに聞いてみたわけだが、リーゼリアの言葉を聞き、フラムは首を横に振った。


「いいや、残念ながら知らないな。だが、アルスフィア帝国と関係しているのならば、下手に探らない方がいい。リーゼリアは学院の生徒を護衛することだけ、優先して考えていればいいさ」


そのあとは現場をフラムが引き継ぎ、リーゼリアは寮へと戻った。思いがけないほど外に出ていたようで、時計を見ると数時間程度しか寝られない時間になっていた。


そのため、リーゼリアは急いで寝巻きに着替え、僅かな時間だとしても睡眠を得るためにベッドに入ったのだった。



* * *




そのことを思い出したリーゼリアはまたしても小さく欠伸をする。こうも教師の話を聞いている授業ばかりでは眠くなって仕方がない。睡眠時間が少ない今回では尚更だ。


けれど、それでも寝ないのは今回の件で納得ができないところがあり、それについて考えているからだ。


(フラムさん、あのとき誤魔化したようだけど、スピカみたいに何かを知ってる)


恐らくそれはリーゼリアが質問した『学院内にアルスフィア帝国の人間がいるかどうか』というものに対してだ。フラムは知らないと否定したが、それならばわざわざ質問し返す必要などないのだ。


それにフラムはリーゼリアの質問に首を振るとき、瞬きが1拍だけ増えたのだ。これはフラムが嘘をつく、隠し事をするときの癖で、相手をよく観察しているリーゼリアだからこそ気づける微細な変化だった。


(学院内に、アルスフィア帝国の人がいる。……でも、今この学院に、留学生はいない)


気になり、朝来たときにノアに尋ねてみたが、留学生は昨年卒業した以来、まだ来ていないということだった。そうだとすると、益々謎が深まる。


留学生でないとしたら、ルシエル王国で生まれたアルスフィア帝国の血筋を引いている生徒ということになるが、それならばそう教えてくれればいいし、ルシエル王国とアルスフィア帝国のふたつの血を引いているのなら、それもまた教えてくれればいい。


わざわざ隠すことなのかと首を傾げるも、そうなるとやはりキーワードは《鍵》と''皇家の血筋''の2つになる。


リーゼリアが知らない何かをスピカもフラムも知っている。そして恐らく、フラムが知っているということは他の《七星の塔》や国王、その他一部の高位貴族も知っている可能性が高い。


(私にだけ、話されていない理由がある。……なにも知らない方が、護衛としていいから?)


素人のように振る舞う護衛がいいからリーゼリアが抜擢されたのだ。そう考えると、なにも知らないままのほうがフラムたちの望む護衛として振る舞うことはできる。


(……そうだとしても、誤魔化されないほうが、良かった)


あそこで誤魔化されると、余計に気になってしまう。しかし、これ以上リーゼリアが一人で探れる情報はない。


(それに、フラムさんにスピカのこと、話してない。話した方が良かったのか、話さない方が良かったのか)


スピカのことを見逃すと言った手前、フラムに話すことは憚られる。けれど、情報共有としてフラムに話すべきだったのかもしれない。


敵では無いと宣言されたが、味方であるとは一言も言われていない。向こうも《鍵》の護衛をしているため、仲間意識のようなものがあるが、それはリーゼリアの任務が学院の生徒、もっと詳しくいえば生徒会役員を中心とした護衛だからだ。


学院内にいるであろう《鍵》も少なからず守る対象に入っているからこそ、リーゼリアは敵ではないと言われたに過ぎない。これが少しでも《鍵》を傷つける真似をしたら、スピカたちは迷いなくリーゼリアたちの敵となる。


(……なんか、色々と面倒事になってきた)


ただ護衛しているだけで良かったはずなのに、なぜ国内だけでなく、国外のアルスフィア帝国まで出てくるんだ。《鍵》なんて知らないし、スピカとかいう変な繋がりもできてしまった。


思わずため息をしてしまうのも仕方がない。けれど、そんなリーゼリアを見て、隣のノアは声をかけてきた。


「大丈夫? なんだか疲れているようだけど」

「……あ、ノアさま」

「あんまり眠れなかった?」


あまりにも欠伸をしたり、ため息をついたりと隣が騒がしいため、ノアの集中を削いでしまったのかもしれない。申し訳なく思い、リーゼリアは小声で返事をする。


「……ごめん、なさい。気をつけます」

「別にそれは気にしてないけど、友達だから心配になって」


ノアの友達、という言葉にリーゼリアは目を見開くも、嬉しそうに笑い、首を横に振った。


「……心配して、いただき、ありがとう、ございます。少し眠いだけ、なので、大丈夫です」

「そう? 体調が悪かったらすぐに言ってね」


ノアの言葉にこくんと頷くと、ノアは教壇の方へと視線を戻した。リーゼリアは授業を聞くのも飽きたため、さりげなく窓の方へと視線を移す。


(……まあ、ノアさまたちとお友達になれたから、別にいっか)


リーゼリアはくすりと笑った。


今日も生徒会の仕事を手伝わないといけない。せっかく部屋の掃除が終わったのだ。これからは本格的に生徒会の仕事に取り掛かることになる。


リーゼリアの部屋整理のおかげで仕事効率が上がったとしても、依然として仕事を進めていかなくてはいけない。夏季休暇に入ってしまえば、一つ目の行事である《星環三刻祭》はもうすぐだ。


国で行われる《静穏祭》とも日程が近いため、早め早めに準備することが必要となってくる。リーゼリアも一応はフェイン侯爵家に属していることになっているため、貴族として《静穏祭》の出席を求められるだろう。


(やるべきことは、定期考査だけじゃないってことか。今までの悠々自適な生活とは程遠いけど、皆がいるから、これも悪くないかな)


リーゼリアは目を閉じ、今日も一日頑張ろうと思って目を開ける。すると、授業はもうすぐ終わりのようで、教師が黒板の文字を消しているところだった。


(ノート取ってないけど、大丈夫でしょ)


魔術基礎学なんて、とっくの昔に頭の中に入っている。黒板の文字が消えていくのを目で追っていると、教師が最後に口を開いた。


「ところで、授業の始めで言ったように、君たち一学年を担当する教師がもうひとり増える。彼は優秀な魔術師なので、彼から学べることは多いだろう」


そう言うと、教師は扉に向かって声をかけた。まさか、ここで紹介されるのかと驚いていると、扉の外から「失礼します」と声がした。


(……ん?)


なんだかその声に聞き覚えがある気がした。だが、扉越しでそう感じただけだろうと思い、リーゼリアは一応姿勢を正す。


静かに扉を開けて入ってきたのは教師にしては若めの男だった。


灰色の髪と澄んだ紫色をした瞳を持った彼は一見してみると、あまり特徴のない顔のようで、どこにでもいる人のひとりだと感じる。けれど、人馴染みしやすい雰囲気を持っているようで、第一印象としては話しやすい、優しそうな教師だった。


クラスメイトはそんな彼を好意的に捉えている。ノアやユリウスたちも同じようだ。


けれど、リーゼリアだけは顔には出さないが、彼の姿を見た瞬間、叫び出しそうになるのを必死に抑えた。


「初めまして、皆さん。俺はルシアン・フェルナード。学院の非常勤講師として皆さんの魔術応用学や魔術戦の指導を行います。どうぞよろしくお願いします」


にこやかに笑うルシアンはクラスに向けて一礼をする。それにクラスメイトは拍手で迎えるが、リーゼリアは彼に鋭い視線を向けた。


(見間違えるはずがない。顔は仮面で分からなかったけど、声も同じだし、あのとき感じたスピカの魔力の質はルシアンと同じもの)


何がどうなっているのか、昨夜スピカとして会ったばかりの人物が名前を変えて、新任教師として学院にいる。スピカの方は「またね」と言って去っていたが、リーゼリアの方はもう会うことはないと思っていた。


(……まさか、こんなすぐな再会になるなんて)


リーゼリアと視線があったスピカもといルシアンはこちらに笑いかけると、目を細めた。その目線がこう訴えかけている。


───ほら、また会った


その意味を受け、リーゼリアはただでさえ疲れていた気分が悪化した気がした。



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