第16話 生徒会役員
食堂のざわめきがリーゼリアの耳に届いてくる。波のように広がっていくそれは生徒会への憧れ、尊敬、畏怖など様々なものが含まれているが、いま現在で多いのはリーゼリアの存在について問うものだった。
「今日も生徒会役員のみなさまはカッコイイわ。あの凛とした佇まい。まさに学院の憧れね」
「だよなぁ。でも、生徒会役員に囲まれている令嬢は誰だ? 新しい役員だったりするのか?」
「確かに見たことないね。一年生かな」
リーゼリアの姿を見て疑問を口にする生徒が多い。中にはリーゼリアに対して敵意を向ける生徒もいる。
(……こっちにそんな物騒なもの、向けないでほしい)
リーゼリアも好きでこの位置にいるのではない。変われるものなら変わってほしいくらいだ。
そんな思いを抱きながら、リーゼリアは足を進める。先頭を歩いていたアシェルが食堂内の奥の方にある扉に入っていく。
今までその扉の先には何があるのか不思議に思っていたが、どうやら生徒会役員専用の二階の部屋へと繋がっていたようだ。他の生徒会役員もそこに入っていくため、リーゼリアも同じようにして中に入り、階段を昇っていく。
学院内はあらかた見たと思っていたが、まだこんな感じで秘密部屋のようなものが隠れてあるのかもしれない。
階段をのぼり終えると、そのまま部屋に繋がっているようで部屋は大きな会議室のような感じだった。真ん中に大きな丸テーブルがあり、それを囲むようにして椅子が配置されている。
定位置のようなものでもあるのか、次々と生徒会役員は椅子に座っていく。リーゼリアが座るための席はちょうど一席空いており、それはノアとアリシアの間だ。
(あそこだったら、気まづくない)
知らない先輩の生徒会役員に囲まれるのなんて食事が喉を通らない。その点、隣がノアたちなら大丈夫だ。もし座ることになっても、目の前がユリウスなのでそこまで緊張することもない。
少し肩の力を抜いていると、生徒会長であるユリウスから声がかかった。
「リーゼリア嬢、その席に座ってくれ」
「……わかりました」
許可を貰ったため、リーゼリアはノアとアリシアの間に座る。けれどその瞬間、先輩たちからの視線を一気に受けることになった。
そのどれもが興味関心で1階のときのように敵意は含まれていないため、そこは安心した。
「食事は勝手に運ばれてくるから、まずは自己紹介でもしよう。俺たちは先輩方のことを知っているが、リーゼリア嬢は知らないし、その逆も然りだ」
その場を取り仕切るユリウスの言葉により、この場にいる全員が自己紹介をすることになった。生徒会長として見本を見せるためか、ユリウスが最初に自己紹介をした。
「俺はユリウス・シェラ・ルシエル。この国の第一王子で、学院の生徒会長を務めている。リーゼリア嬢は最後として、俺から時計回りに言ってもらおう」
思ったよりも短めだったが、そんな長々と話すことでもないのかと考え直す。そもそも、学院内にこの国の第一王子を知らない人間がいるはずもないのだ。
ユリウスは続いて、自身の左隣に視線を向ける。向けられたのは同じ顔をした双子だ。くせっ毛か癖がないストレートの髪かで判断するしかなさそうなほど、顔がそっくりだ。
「僕は2年のリューイ・マラティアス。生徒会の書記をやってるよ。隣にいるのは双子の弟のリューレ」
「初めて、リューレ・マラティアスです。兄と同じく生徒会書記を務めています。僕たち双子なので名前で呼んでもらえると嬉しいです」
「気軽にリューイって呼んでよ」
話しやすそうな兄としっかり者の弟と言った感じだ。ちなみに、くせっ毛の方がリューイで髪がストレートの方がリューレみたいだ。
リーゼリアは軽く会釈をすると、リューイには手を振られ、リューレには会釈をされ返された。
「次はサリア先輩ですよ」
リューレは隣に座る女性の先輩に声をかける。彼女は持っていた扇を口元へと近づけると、視線をリーゼリアに向けた。
赤い瞳がリーゼリアを射抜くが、瞳の色に乗せられたものは敵意ではないようだ。
「初めまして。わたくしはサリア・フォルナーチェ。フォルナーチェ公爵を父に持ち、この学院の生徒会会計を務めていますわ。わたくしはあなたの二つ上ですので、普段の学院生活ではあまり関わることはないかと思いますが、よろしくお願いいたしますわ」
女傑の雰囲気を纏わせる彼女がリーゼリアに向けていたものは興味関心というよりも相手を見定めるものといった方がしっくりくる。下手な探りの視線よりもはっきり真っ直ぐで、これは彼女の性格を表しているようだ。
サリアの次はアリシアだ。同じ一年生で、友人関係のアリシアの自己紹介は聞かなくても分かるが、これまでの流れに合わせるとなると、アリシアも自己紹介をすることになる。
けれど、アリシアは案外、自己紹介を楽しみにしていたようでノリノリと言った感じで口を開く。
「次は私ですね。私はアリシア・エストレインです。生徒会では庶務として先輩方と一緒に活動しています。そして、リーゼリアの一番のお友達です」
「!」
最後の言葉にリーゼリアは目を丸くする。けれどすぐに嬉しそうに破顔した。
「……うん。私も、だよ」
あまり大きくないリーゼリアのその声は他の生徒会役員には聞こえなかったようだが、隣にいたアリシアにはしっかりと聞こえていたようだ。アリシアもリーゼリアの言葉に嬉しそうに頬を弛めた。
「はいはい、仲がいいのはいいけど、今はこっち。次、俺が言うからね」
二人で笑い合うリーゼリアとアリシアに少し呆れたように肩を竦めたノアは小さく息をこぼすと、ゆっくりと口を開いた。
「俺はノア・ヴァルトリア。生徒会ではアリシア嬢と同じ庶務を務めているよ。すでに知っている仲だし、これ以上言うこともないから、次お願いします」
ノアは隣の先輩に声をかける。彼は金の瞳を柔らかく細め、リーゼリアに挨拶をするために向き直った。
「初めまして、私はリアン・ミリアーネ。学院の三年生で、生徒会副会長を務めています。アシェルから話を聞いていて、会うのを楽しみにしていたんですよ。よろしくお願いしますね」
整った容姿を最大限生かすような甘い笑みを浮かべるリアンは副会長というに相応しい知的で落ち着いた雰囲気がある。しかしそこに、刺々しいアシェルの声が入ってくる。
「妹に色目使うな」
「やだなぁ、そんなことしてないですよ。私はアシェルの妹と仲良くなりたいだけです」
にこやかにアシェルに告げるリアンはアシェルの扱い方を分かっているのか、軽くあしらっていた。
「全く。……俺はアシェル・フェインだ。そこに座っているリーゼリアの兄で、生徒会会計を務めている。妹に友人ができたようで嬉しいよ」
兄としてリーゼリアの成長を喜ぶアシェルはリーゼリアを見て、優しく微笑んだ。それにリーゼリアも嬉しくなって微笑み返す。
「さあ、最後はリーゼリアだ」
アシェルにそう言われ、リーゼリアは僅かに緊張した。八人全員に見られていると思うと、口の中が乾いて上手く声が出せるか分からなくなる。
けれど、リーゼリアはそれを一切表情には出さず、毅然としたまま口を開いた。
「……初めまして、生徒会役員の皆さま。私は、リーゼリア・フェイン、と申します。アシェル・フェインの、妹です。話すことが、あまり得意ではないので、話し方が変だったら、ごめんなさい。どうぞ、よろしくお願いします」
座ったまま、失礼にならない程度で生徒会役員全員に向けて会釈をする。顔を上げるとまたしても生徒会役員の視線が突き刺さり、気まづさのあまりに口がひきつりそうになる。
そのとき、リューイから声が上がった。
「僕たちもリーゼリア嬢って呼んでもいい?」
右手を軽く上げながら、リーゼリアに問いかけるリューイ。リューレも隣でリューイと同じ意見だというように首を傾げている。
そっくりな二人に見つめられ、リーゼリアは目をぱちくりとさせながらも頷いた。
「……は、はい。好きなように、呼んでください」
すると、いいことを聞いたと言わんばかりにリアンはアシェルを見ながら、にんまりと笑った。
「じゃあ私はリーゼちゃんって呼びますね。アシェルの妹なら、私の妹みたいなものでしょう?」
「なに巫山戯たことを言っているだ? なんで俺の妹がお前の妹になる??」
「えー? 私とアシェルの仲じゃないですか。リーゼちゃんは私のこと、リアン兄さまと呼んでも構いませんよ」
思わぬ展開についていけず、リーゼリアはオロオロしてしまう。アシェルとリアンの仲がいいことは分かったが、未だに軽めの口論をしている二人をどうしたらいいのか。
そう思っていると、じっとこちらを見ていたサリアが口を開いた。
「あの二人はいつものことですから、放っておいて構いませんわ」
「……そ、そうなんですか?」
「ええ。それよりも、わたくしのことはサリアと名前で呼んでちょうだい。家名だと長いから」
「……は、はい。さ、サリア先輩」
名前で呼ぶと、サリアはほんの僅かに頬を赤らめた。ごくごく小さな変化ではあるが、あの女傑としたサリアからは考えられない表情だ。これがギャップというものだろうか。
そう思っていると、ユリウスの咳払いで場が静まり返った。
「まずは食事にしよう。昼の時間も限られているからな」
壁にかけられた時計を見てみると、確かにあまり長居していられない残り時間のようだ。次の授業の準備もあることだし、少し早めに教室に戻りたい。
「僕たち次は移動教室だから、余裕もって帰りたいしね」
「そうですね。お腹も空いていますし、話は食べながらでもできるので、料理を運んできてもらいましょう」
リューイとリューレの言葉も加わり、ユリウスはテーブルに置かれた鈴をチリンと鳴らす。すると、扉の前で待機していたのか、次々と料理がテーブルへと並べられていく。
全ての料理がテーブルを埋め尽くすと、ユリウスは告げた。
「好きなものを各自自由に食べてくれ」
その言葉にそれぞれ料理に手をつけ始めた。




