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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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不安と通知と

朝、悠は1組の前を通るときに中を覗くと、教室の後ろあたりに咲の姿があった。

それを見ただけで、少しホッとした。

机の上に広げたノートに必死に何かを書き込んでいるのを見て、声をかけに行きたい気持ちをグッと堪えた。



放課後になると、悠は夏海と一緒に図書室へ向かう。

廊下ですれ違う女子の多くが夏海に手を振っていく。


「夏海ちゃん、ばいばーい」

「ばいばい、またね!」


夏海もそのたびに明るく手を振り返していく。

こうやって見ると、夏海は本当に友達が多い。バスケ部でキャプテンに選ばれたのは、実力以上に人望が厚かったのだろうな、とふと思った。


1組の前を通り、悠と夏海は足を止めて教室の中を覗き込む。

雑談している生徒が何人か残っていたが、咲の姿はなかった。


(……先に行ってればいいんだけどな)


一縷の望みを持って、図書室に向かった。


図書室のドアは開けっ放しになっていて、咲が来ていないことはすぐにわかった。


「咲ちゃん、いないね……」

「……」


開いたままのドアをゆっくりと閉じて、ふたりは少し重い足取りでいつもの窓際の席に座った。


咲が座るはずの席は空けたまま。

いつ来てもいいように。


多分、今日も咲は来ない。

悠はなんとなく、そう思っていた。


「咲ちゃん、今日も来ないのかなあ……教室にもいなかったし」

「うん……もう帰ったのかもしれない」


夏海も同じようなことをつぶやく。

机に突っ伏して、気分が落ちているのが目に見えてわかった。


それでも勉強は続けなければいけない。

悠はリュックからノートと参考書を取り出して机に広げた。

昨日自分が書いた分は、驚くほど量が少なかった。どれだけ集中できていなかったのかを改めて感じた。


「悠くんさ、咲ちゃんにメッセージとかしてる?何か言ってたりしない?」

「……いや、してない。普段もほとんどしないし」

「んん……ほんっとにもう。君たちは……」

夏海は笑いながら、呆れたように肩をすくめる。


「……ね、咲ちゃんにメッセージ送ってみてくれない?」

「うん、今日は送ってみるつもりだったし、良いよ。でも、夏海さんが送ってもいいんじゃないの?」

「……私より、悠くんのほうが良いの」


その言葉の後で、夏海は陰るように顔を伏せた。


「うん……分かった」


悠はポケットから取り出したスマホの画面を叩く。

咲とのトークルームを開くと、それだけでなんだか温かい気持ちになった。

過去のメッセージは、いつものふたりがそのままトークルームにいるような、他愛もない会話が残っていた。


慎重に、できるだけ柔らかく、でもいつも通りになるように考えて言葉を選ぶ。


悠:「お疲れ。今図書室にいるんだけど、今日はもう帰った?」


誤字がないことと、咲が返しにくくなっていないかを、頭の中でシミュレーションする。

うん、たぶん大丈夫だろう。

ひと呼吸置いてから、送信した。


「……とりあえず、送っといた」

「ありがとう。返事、来るといいなあ」

「……さすがに無視はしないでしょ……」


それからふたりは机に広げた問題集に向かい合った。

だけど、定期的に夏海は悠にぼそっと尋ねてくる。


「返事来た?」

「まだ……」

「そっか……」


そんなやりとりが、何度も繰り返された。

しかし、下校のチャイムが鳴っても既読はつかなかった。


「咲ちゃん、大丈夫かな……」


帰り道でも、夏海はずっと咲のことを気にかけていた。


「わからない。ただ、もう俺たちにできることは何もないと思う……」


本当は、心配で仕方ない。具合が悪いのか、見られない状況にあるのか。

……それとも。


もう、連絡を取りたくないと思われているのか


その考えが浮かんだ瞬間、ぞくり、とした感覚に襲われる。

いつも当たり前のように過ごした時間が失われるようだった。

小さく頭を振る。


大丈夫、咲は学校には来ている。いざとなれば直接話せばいい。そう、思うことにした。



返信の通知に気づいたのは、家に着いたときだった。

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