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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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空いた席

嘘のような秋晴れで、空はどこまでも澄み渡っていた。

空の様子とは打って変わって、悠の気持ちは曇っていた。


昨日、咲が進路面談をした日。

結局、咲には気の利いた言葉をかけられなかった。助けになれなかった。


それから今日、咲は図書室に来ていない。もうすぐ下校時間になるのに、顔すら出さなかった。

今までなら、用事がある時でも、少しだけでも顔を出してくれたのに。


悠の向かいの席。いつも咲が当たり前のように座っている席は、今日は静かに空いたままだった。


読書中でも勉強中でも、咲の動作はいつも柔らかかった。

窓から差し込む夕日に照らされて、オレンジ色に染まる。悠はそんな彼女を正面から見ている時間が大好きだった。

たまに目が合うと、ふっと微笑んで「なに?」と話しかけてくる。

そのどれもが、悠の心をいつも温かく包んでくれていたのだと、改めて実感した。


図書室のドアが開くたびに振り向いてしまい、別の誰かだったら、少しがっかりして。

ドアの外から足音が聞こえてくると、入ってくるのかと期待して、やっぱり来なくて、がっかりして。

今日は、まったく集中できなかった。


悠の斜めに向かい合って座っている夏海も、問題集とにらみ合っているが、手が動いていない。心ここにあらず、と言う言葉がぴったりの顔をしていた。


夏海はぽつりと「……咲ちゃん、今日は来ないのかな」とつぶやいた。

「……かもね」

悠もボソッと答える。


「諦めちゃったのかな……」

「……分からない。でも、藤音さんはそんなに弱くないと思うけど」

悠の言葉には、小さな確信のようなものが混じっている。


バレンタインの時も、クリスマスのイルミネーションを見に行ったときも、新年のメールも。

咲のほうから動いてきていた。

芯の強さを身をもって知っていたから、信じていた。


悠の言葉を聞いて、夏海は小さく笑う。


「悠くん、咲ちゃんのこと信じてるよねえ」

悠は小さく頷いた。恥ずかしいとは思わなかった。

夏海も小さく「私も信じてるけど」と続ける。



図書室に下校のチャイムが鳴り響き、悠は荷物をまとめながら言う。

「……今日は休みだったのかもしれない。帰ろう」

「うん……咲ちゃん、明日は来てくれるといいな」


学校を出ると、秋の空は暗くなっていた。

悠と夏海は、ふたりで住宅街を歩く。

会話はほとんどなかった。

ふたり分の足音と、夏海が引く自転車の音だけがやけに響いていた。


分かれ道に差し掛かり、夏海は慣れた手つきでヘルメットを被る。

「じゃ、また明日ね。悠くんは明日も図書室、行く?」

「うん、行く予定」

「さすが。私も行くから。じゃあね!」

そういって自転車にまたがり、遠ざかっていった。

悠は小さく手を振って、その背中が見えなくなるまで見送った。


(……明日来なかったら、連絡してみるか)


そう決めて、いつもは咲とふたりで歩く帰り道を、ポケットに手を入れたままひとりで歩いていった。

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