表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい灯  作者: 豆大豆
2章
90/145

置いてけぼり②

少しの間、重い沈黙が続き、窓に打ち付ける雨音がやたら大きく響いていた。

悠はその空気を少しでも変えようと、小さく口を開ける。


「……夏海さんは塾とか行ってるんだっけ?」

「ううん、行ってないよ。ここでの勉強以外は、家だけ」

夏海は少し考えて、続けた。

「あ、でも私、単純だからさ。一度集中すると止まらなくて……昨日も気づいたら朝の4時だったし」

「「4時!?」」

咲と悠の声が重なった。思わず顔を見合わせて、慌てて声のトーンを落とした。

「え、夏海さん、眠くないの?」悠は続けて聞いた。

「う、うん……さすがにちょっと眠いけど……でも、普段は1時ぐらいには切り上げるし」


夏海は照れ隠しのように笑った。


「やっぱ夏海さんはバスケ部だったから体力と集中力があるのかな」と、悠がつぶやく。

「それでも、そんな時間まで……私、そんなふうにはできない……」


夏海の急成長の理由が分かった気がした。

いたって単純だった。

ただひたすらに、集中力が深く、長い。そして、それについてくる体力があった。


(……どうして、私の限界はこんなに低いんだろう)


咲の頭の中に言葉がよぎる。

自分は、翌日の体調を優先して、日付が変わるころには寝るようにしていた。

夜更かしをすれば、翌日の授業に集中できなくなる。勉強時間が増えても、眠気と疲れで頭に入らないなら意味がないと思っていた。


だけど、目の前で急成長を見せつける夏海は、自分の限界を軽々と飛び越えていた。


それと比べると、自分の努力がひどく薄っぺらく感じられてしまう。

悔しさと情けなさ。その両方が咲の胸を締め付けていた。



「……咲ちゃん」

夏海が静かに口を開いた。いつもの明るさを抑え、真剣な目で咲を見ていた。


「私ね、咲ちゃんがずっと頑張ってるの、ちゃんと分かってるよ」

夏海は続ける。

「だから……大丈夫。今回の結果がどうでも、咲ちゃんが努力してることは変わらないから」


咲は、言葉が喉に詰まるような感覚に襲われた。

夏海の真っすぐな優しい声は、余計に自分の小ささを浮き彫りにしてくる。


それに続くように悠も口を開いた。

「……俺もそう思う。藤音さん、毎日ずっと図書室で頑張ってるのを見てきたから」

一拍置いて、さらに続ける。

「……今回の結果はたしかに重いけど、それで全部決まるわけじゃないし。これからも、一緒に、少しずつ進めよう」


ふたりの言葉は温かく、誠実だった。

でもその優しさは、咲の胸に届く前に、重い鉛のように沈んでいく。

まるで、自分より高い足場から投げかけられる声のように響いていた。


(……どうして、私は素直に受け止められないんだろう)


ありがたいのに、胸の中では劣等感が顔を出す。

夏海の真っすぐさも、悠の落ち着いた言葉も、自分をさらに惨めに感じさせた。


ふたりの隣にいるのが、つらい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ