置いてけぼり①
1日の授業が終わり、放課後の始まりを告げるチャイムが鳴る。
放課後になるのが怖かった。
と言うより、放課後の図書室で、ふたりに顔を合わせるのが怖かった。
それでも、今の自分の立ち位置を伝えたいと思い、心に鞭を打つ。
いつも賑やかな放課後の廊下の音も、なんだか今日は静かな気がした。
放課後の図書室は、いつものように本のにおいに満ちていた。
窓の外は濃い雨雲が陽の光を覆い、窓ガラスからは小さな雨音が聞こえる。
外の世界はグレーに染まり、咲の気分をさらに憂鬱にさせた。
いつもの窓際の机には、いつもどおり既に悠と夏海がいた。
咲には、その机までの距離が遠く見えた。
夏海は模試の成績表の胸に抱え、咲が机に座るやいなや満面の笑みを向けた。
「聞いて、咲ちゃん。今回、Bだった! 前はDだったから、2つも上がったんだよ」
声は抑えているのに、嬉しさがこぼれている。
「……すごい……おめでとう。本当にすごいね……」
咲は笑った。笑えた、と思った。
DからB。あっという間に、追い越された。
胸の内にある鉛の塊のようなものが、より重く、大きくなったように感じた。
向かいの席では、悠が成績表を半分だけ開いている。
「俺は今回もB。ただ、Aまであと一歩かも」
淡々と、悠は呟く、得意げでも謙遜でもない、ただ事実を伝えるだけの口調だった。
「日向くんも、すごいね。ふたりとも、よかった」
本心から、そう思えた。ずっと一緒に頑張っていたふたりが、目標に届きそうになっている。
だけど同時に、自分だけおいていかれている事実が、どうしようもなく苦しかった。
咲はゆっくりとカバンから成績表を引っ張り出し、机の上に置いた。
そっと成績表を開き、現れた判定欄の文字を言葉にするまで、時間がかかった。
ゆっくりと折り目を開く。そこにあった判定を読み上げる。
「……Dに落ちたんだ、私。」
成績表の端をつまむ指先が、わずかに震えた。
夏海は一瞬、息を止めたようだった。
「……そっか。ごめん、私……」
夏海がそこまで言うのを、咲が遮るようにつぶやいた。
「ううん……日向くんも夏海さんもすごいよ。私がまだまだだっただけだから」
精一杯の笑顔を添えた。
少しの沈黙。図書室の穏やかな空気は、今日は重かった。




