D
教室の窓の外は、鉛色の雲が重くのしかかるようだった。
咲のクラスでは、担任が模試の結果の入った封筒を配り始めていた。
咲は受け取った結果を開けられなかった。
結果を見てしまうことがどうしても怖かった。
数日前に受けた模試の手応えは、決して良くなかった。
試験中は悩む時間ばかりがかさみ、問題の半分も終わらないうちに、試験時間の大半が過ぎていた。
焦りは、普段は解けるはずの問題も悩ませてしまう。
解答箇所には飛ばされたマークがいくつもでき、「とりあえず埋めないと」と無理やり埋めた。
正解の自信からは程遠い、運任せだと言うのは分かっていた。
なにもかもが良くない方向に作用していた。
咲は模試中に感じた焦りと迷いをぼんやりと思い返していた。
周囲から聞こえてくるクラスメイトの反応が、咲を現実に引き戻した。
「よし、上がった!」
「うーん、Cか……でもほぼBだからいいかな?」
小さく喜ぶ声、誰かのため息。
結果を受け止める声が流れてくる。
ここで見ても見なくても、結果は変わらない。
咲は意を決し、模試の成績表をおそるおそる開き、判定欄を覗いた。
そこに書かれていたのは、黒い一文字。
「D」
無機質な判定の一文字が、白い紙の上に張り付いていた。
背中に冷たい感覚が流れていく。
わずかな息苦しさと吐き気の感覚が広がる。
短い時間だが、自分の呼吸が止まっていたのだと気づいた。
(……どうしよう、どうしよう)
教室のざわめきや、誰かが話す声や笑い声が、すべて別の部屋の出来事のようだった。
視界が、少し揺れるような感覚。それでも、判定欄の文字が変わることはない。
これが、現実だった。
胸の中に丸い鉛の塊が落ちるような感覚に襲われた。
予期していた結果が容赦なく突き付けられ、何も考えられなかった。




