鉛色の予感
放課後の図書室はいつものように机と本の匂いが混ざり、どこか落ち着く静けさがあった。
開いた窓からは、涼しくなってきた風と、険しさの薄れた日差しが入り込み、カーテンは優しくはためいて、金色のように光っていた。
窓際に座る三人はいつもの席に並び、翌日の校内模試に備えて、問題集とノートを広げていた。
「うう、現代社会、もうちょっと頭に入れておかないと……」
夏海は、プリントを広げながら、慌てた声でぼやく。
悠は参考書のページに指を置いたまま、静かに答えた。
「今さら焦ったって変わらない!って自分で言ってたじゃん……」
「そうだけどさー!でも足りてないの気づいたらやるしかないでしょー!?」
少しだけ声のボリュームが上がる夏海を、咲がたしなめた。
その様子を見て、悠は少しだけため息をついた。でもその顔は、「しょうがないな」と小さく笑っているようだった。
「……でも、私も夏海さんと同じ。分からないところ多くて……すごく不安」
「きっと大丈夫だよ。咲ちゃん、ずっと頑張ってるのを見てきたし。」
夏海は明るく、背中を押すように言葉をかけた。
「まあ、模試だし。そこまで気負わずにやろう。終わったら、一緒に復習しよう」
続く悠の言い方も控えめだが、そこに込められた頼もしさが咲にはちゃんと伝わる。
咲はノートの端を押さえつつ、笑顔を作る。
「うん、ありがとう。がんばるね」
「……ほんと、咲ちゃんには優しいよねー……」と夏海が少し頬を膨らませて、ふてくされるように言った。
悠は何も言わず、顔を背けて小さく頭をかいた。
いつもの三人でかわすやり取りは、咲の不安を少しだけ軽くしていた。
それでも、不安は消えなかった。
中間テストの結果も、参考書に挟んだ不明点を示す赤い付箋の数が減らないことも、
すべてが咲の心をざわつかせていた。
校内に、下校のチャイムが鳴り響いた。
「じゃあ、明日ね。早めに寝て、明日は頑張ろうね」
夏海が言い、咲と悠がうなずく。
三人で軽く片付けをして、一緒に学校の外へ出る。
帰り道、途中の別れ道で咲と悠は夏海の背中を見送る。
咲は悠に駅の改札まで見送られ、手を振って別れて電車に乗った。
いつもと変わらない日常が、咲を少しだけ落ち着かせた。




