まだ隣に
学校を出たときには、空はすっかり茜色に染まっていた。
頬を通り抜ける風は、ほんのりと冷たさを帯びていて、
学校から長く伸びた影が、三人に覆いかぶさっていた。
並んで歩く帰り道、咲はいつもより半歩分、足取りが後ろだった。
「……ありがとう。今日の、あの式。なんとなく、分かった気がする」
ぽつりと咲が言うと、隣を歩く夏海がぱっと顔を上げた。
「ほんと? よかった……! 咲ちゃん、ちゃんと見直してたし、絶対大丈夫って思ってた」
そう言って笑う夏海の顔は、真っすぐだった。
「……うん」
咲も小さく笑い返した。夏海が、こうして純粋に喜んでくれることが嬉しい。
少し前までは、自分が夏海に教える立場だった。
それなのに、今はこんなふうに、教えてもらってばかりだ。
でも、咲は思う。
まだ、ふたりと並んでいられる。そう信じている。
住宅街を抜けて分かれ道に差しかかると、夏海はヘルメットをかぶった。
「じゃあ、わたしこっちだから。また明日ね!」
手を振る夏海は、夕陽に照らされて少しまぶしく見えた。
「うん、また明日」
「また明日」
咲と悠がそれぞれ応えると、
夏海は勢いよく自転車をこいでいく。
ふたりは離れていく夏海の背中を見届けていた。
それからどちらともなく黙って歩きだしてから少しして、
悠が、横を向かずに言った。
「……今日みたいなやつさ。分かんなかったら、何回でも聞いていいから」
照れたような間が空く。
「ほら、教える側も、復習になるって言うから、だから……」
言葉の端々から、気を遣わせまいとしているのが伝わってきた。
ああ、この人は本当に優しいんだな。
「……うん、ありがとう。日向くんがいてくれて、助かってる」
言いながら、素直に言葉が出た自分に少し驚いた。
悠は「そっか、よかった」と短く返し、それから、頭を小さくかきながら、小さな声で付け加えた。
「……できれば、みんなで合格したいからさ」
さりげないけど、まっすぐな言葉が、咲の胸にしみた。
夕焼けの光が、ふたりの足もとを照らしていた。




