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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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停滞感

少し前まで肌を刺すようだった日差しは、日に日に柔らかくなっていく。

一足先に来た咲は、図書室のいつもの席で参考書とにらみ合いをしている。


教科は数学。

もともと得意な科目とは言えなかったが、三年の範囲はさらに難解に思えた。

基礎的な問題は何とか解けているのに、応用問題になるとペンが止まる。

数字がただの記号の羅列にしか見えなくなり、ページを遡っても解き方が思い浮かばない。

何度も式を書いては消し、ノートの上には消しカスだけがたまっていった。


(……他の科目も進めたいのに)


視線を横に動かすと、積まれた教科書の山。

どれも、復習が必要な科目ばかりだった。

ほのかな焦りと、わずかな不安が胸を締め付け、視界が揺れるような感覚に襲われる。


ペンを置き、両手で目元を覆う。


(……私、大丈夫なのかな)


近づいたと思った桜ヶ丘大学の門。

それが、少し遠くに行ってしまったような気がした。

そして、悠の背中も……。



咲の気分が落ち込んでいる中、図書室のドアが静かに開き、悠と夏海の姿が見えた。

夏海はいつもの明るい笑顔で軽く手を振ってくる。


咲も少し手を振り返す。


「先生さー、私たちに雑用頼まないでほしいんだよね。段ボール運ぶの大変でさ~」

「『たち』って……頼まれたの夏海さんだけじゃん。俺、完全に巻きこまれただけだよ……まあ、いいけどさ」

悠はため息まじりながらも、声には笑いが含まれていた。

「うっ、だって男手が欲しかったんだもん……」

夏海は笑いながら「でもありがとうね!」と添えた。


ふたりは雑談を交わしながら、カバンから参考書とノートを取り出し、勉強を始める。

その明るいやり取りに、咲の口元がふっとほころぶ。

まるで、沈んでいた気持ちが引っ張り上げられるようだった。


席について勉強を始めた悠に、咲は少し悩んで、そっと声をかける。


「あの、日向くん……数学のここ、教えてもらってもいい?」

ページを指さしながら、咲は少し申し訳なさそうに続けた。


「どう導けばいいのか、解説読んでも分からなくて……」


悠が顔を上げて、「うん、いいよ」と、ためらいなく返事をする。

咲の問題集を受け取って一緒に考えるも、


「ちょい待って……どうやって解くんだったかな」

悠も一緒に悩み始めて、自分のノートをめくり始めた。


「あ、私わかるよ」


不意に夏海が声を上げ、咲と悠の視線がそちらに向いた。


「えっ……夏海さん、数学苦手って言ってなかったっけ」


悠は思わず聞き返した。


「うん。でも最近、このあたりを理解したんだよね。たしか……こうじゃない?」

夏海は自分のノートを咲の方へ向け、さらさらとシャーペンを走らせる。

ノートには図や数式が丁寧に書き込まれていた。


「ああ、そうか……」


悠は立ち上がって、そのノートを覗き込み、


「すごい……分かりやすい……夏海さん、ありがとう」


咲は心からそう口にした。

自分の中に引っかかっていた靄が晴れていくのを感じる。


「ううん、ここ難しいもんね。また聞いてね」


その言葉に、咲はうなずいた。

優しかった。でも、どこかで置いて行かれているような気もして。

悔しさと無力感が、静かに胸の中に積もっていった。

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