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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
83/145

夕暮れのファミレスで③

トイレから戻ってきた悠はハンカチを両手で畳みながら席に座った。


「あ、おかえりー」夏海の明るい声に、

「ただいま」と悠が返す。


「お、おかえり……」咲は、なんとなく悠を直視できず、視線を逸らしていた。

その様子を見て、悠はほんのかすかな違和感を覚えた。


「……藤音さん、大丈夫?体調悪い?」


「えっ……うん、大丈夫だよ?」咲は、精一杯平静を装った。

「……そう?ならいいけど……無理はしないで」

夏海はふたりのやり取りを見て、小さく頷いた。


悠は夏海を一瞬見ながら、自分のグラスに手を伸ばした。

(俺が居ない間に何かあったか……?)

そう思いながらも、それ以上の追及はしなかった。



いつの間にか店内は家族連れが多くなり、ますます混み合ってきていた。

夏海は手帳型ケースに入ったスマホを開き、時間を確認した。


「よし、そろそろお開きにしよっか」

「たまには甘いものもよかったな」

「でしょ?私に感謝しなさいね」

夏海はふざけたように言い、それを見て咲はくすっと笑った。


混み合うレジで個別に会計を済ませて外に出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。

街灯をふと見上げると、虫が光に向かって何度もぶつかっていた。


少しだけ涼しくなってきた風を浴びながら、三人は駐輪場に歩く。

自転車の鍵をカチャリと開けた夏海はふたりにお礼を言った。


「ふたりとも、今日も付き合ってくれてありがと!また来ようね」


明るい夏海の声に、


「うん。今度は別のところも行ってみたいね」

「……俺は気が向いたらね」


咲と悠はふたり並んで、夏海に別れの言葉をかけた。

しかし、夏海は少しの間、その場に考えるように間立ち止まり、

そして、咲のもとに駆け寄ってきた。


「……咲ちゃん、今日はごめんね」


咲は黙って首を振った。それは「気にしてないよ」という、彼女なりのやさしい返答だった。


「ううん……大丈夫だよ。むしろ良かったかも」


そう言って、やわらかく笑った。


「ほんと優しい子だねえ、咲ちゃんは。ね、悠くん!」


突然話を振られた悠は


「……なんで俺に振るんだよ」

「こんなに良い子ってめったにいないんだよ?大事にしてあげてね?」

「分かってるって。……いや、だからなんで俺に言うんだよ……」


思わず肯定してしまった自分に照れたのか、悠は目を背けた。

夏海はその様子を見て笑いながら、


「じゃ、私行くね!ふたりとも気を付けて帰ってね」


颯爽と自転車にまたがり、手を振るふたりを背にして、夜道を駆けていった。


あっという間に見えなくなった夏海を見送り、悠は言う。


「……結構遅くなったし、俺たちも帰ろうか」

「うん。私、夜ご飯入るかな」


笑いながら、咲と悠は並んで歩きだした。

ふと、咲は、悠の横顔を盗み見る。

視線に気付いた悠は咲を見て「……ん?」と尋ねる。その顔は、いつもの顔だけど、夏海が言う通り穏やかさを感じた。

咲は、その穏やかな表情をもう少しだけ見ていたいと思った。けれど、

「な、なんでもない」と少しごまかすように視線を外し、前を向く。

悠は少しだけ不思議そうな顔をしながらも、すぐに同じように前を向いて歩き始める。

街灯から照らされたふたりの影は、優しく寄り添っているようだった。

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