成果の欠片
校内模試から数日後の午前中。
一組では、担任が模試の成績表の封筒を配っていた。
咲は受け取った結果を開いて、判定欄をおそるおそる覗いた。
春の模試ではD判定だった第一志望が、今日はCに変わっていた。
胸の奥がふっと軽くなった。
(……よかった)
小さく息をつき、成績表をファイルに挟む。
周りの友達は成績を見せ合って笑ったり肩を落としたりしている。
咲はその輪には入らず、自分の中で静かに喜びをかみしめた。
同じころ、二組の教室では、悠と夏海が成績表を手に向かい合っていた。
悠は変わらずB判定。
夏海はEからDに上がっている。
「お、やったじゃん」悠が笑うと、夏海も満面の笑みで紙をひらひらさせた。
「でしょ?まだまだだけどね」
「まだまだだな」
笑いながら軽口を交わしあうふたりにも、どこか安堵の色が浮かんでいた。
チャイムが鳴り、授業の終わりと放課後の始まりを告げる。
廊下は生徒たちが賑やかに言葉を飛び交わせていた。
咲はその喧騒の中を抜けて、図書室へと向かっていた。
カバンを肩に掛け、ゆっくりと階段を下りていると、背後から名前を呼ばれる。
「藤音さん」
振り返ると、そこには悠がいた。
顔を見た瞬間、自然と表情がやわらいだ。
「あ、日向くん」
「図書室だよね?一緒に行こう」
「うん」
ごく自然に、ふたりは並んで歩き始めた。
図書室の戸を開けたふたりに、先に来ていた夏海が気付き、笑顔で手をあげる。
窓から差し込む西日の中、それぞれいつもの机に集まる。
咲がカバンから成績表を取り出し、そっと机に置いた。
「私……Cに上がってた」
「おお、咲ちゃんいいじゃん!私もEからD!」夏海が身を乗り出し、悠もうなずく。
「俺はBのまま。でも、点数はちょっと上がってた。」
三人の間に、ほっとした空気が広がる。
この日だけは、数字の差よりも“みんなで進んでいる”ことのほうが大事だった。




