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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
78/145

つかの間の発散

放課後の駅前は、学校帰りの制服姿と私服の人が入り混じっていた。

カラオケ店の看板が放つ光は、まだ外が明るいせいで少しぼやけている。

三人は学生料金で入店し、受付のカードを受け取ると、長い廊下を抜けて指定された部屋へ向かった。


扉を開けると、薄暗い照明と、ソファの合皮の匂いが広がった。

小さなモニターにはPVが流れ、エアコンの低い音が空間を満たしている。

ソファに腰を下ろした悠は、ふと思った。

(……あれ、女子二人に俺ひとりって、なんか浮いてないか?)


悠の心配をよそに、咲も夏海も特に気にしている様子はない。

夏海は当然のようにデンモクを手に取り、「とりあえず飲み物と軽食頼んじゃうね」と、操作を始めた。

注文を済ませると、そのまま歌の選曲画面を開き、迷いなく最近流行りの曲を入れる。


イントロが流れ、夏海の声が部屋に満ちた。

伸びやかで堂々とした歌いぶりに、モニターの映像が少し霞む気がする。

歌い終わると、咲が「わあ、夏海さん、すごく上手」と拍手を送った。

悠も思わず口元を緩める。

夏海は満足げに笑い、「続けて歌っちゃっていい?」と聞く。

咲と悠がうなずくと、二曲目が始まった。


夏海が二曲目を歌っている間、悠はそっとデンモクを手に取り、少し前のドラマで使われた有名な曲を入れる。

モニターに曲名が表示されると、「おー、これ知ってる!」と、歌っていた曲を途中で止め、笑顔でマイクを悠に差し出した。


悠がマイクを受け取ると、夏海は「私も一緒に歌っちゃお」と、もう一本の空きマイクを握った。

最初は少し恥ずかしそうだった悠も、楽しそうに歌う夏海に釣られて声が乗っていく。


その様子を見ていた咲も、次の曲を入れた。

誰でもすぐにわかる、有名なアニメの主題歌。

夏海は「これも歌う!」と笑い、マイクを離さないまま一緒に歌い出した。

高めのテンポに合わせ、夏海の声は軽やかに響く。

(……すごい体力だな)

悠は内心でそう思いながら、画面の歌詞を追った。


また別の曲を夏海が歌っている途中、扉が軽くノックされて開き、店員がトレーを持って入ってきた。

トレーの上には、ポテトや唐揚げ、添え物のレタス。

窓のない小さな空間に、油の匂いとソースの甘い香りが混ざる。


「ここの揚げ物、絶品なんだよ。食べて食べて」


夏海は笑いながらマイクを置き、紙皿に乗せていく。


悠はポテトをつまむ。カリカリほくほくした触感が口に響く。

「ほんとだ、これはうまいね」

「この唐揚げもおいしい……味付けもしっかりしてる」


「でしょー?」


咲と悠の反応を見て、夏海は満足げにけらけらと笑った。


モニターにはまたPVが流れ、室内の照明が放つ光の粒が、音に合わせて静かに揺れていた。

咲と夏海は軽食をつまみながら、なんてことない雑談をしている。


悠は光に照らされている二人を見て、張りつめていた気持ちが音もなくほどけていくのを感じた。


(普段来ない場所だけど……居心地は悪くないな)


きっと、この三人だからだ。

そう思ったけど、言葉にするには照れくさくて、そっと胸にしまった。

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