つかの間の発散
放課後の駅前は、学校帰りの制服姿と私服の人が入り混じっていた。
カラオケ店の看板が放つ光は、まだ外が明るいせいで少しぼやけている。
三人は学生料金で入店し、受付のカードを受け取ると、長い廊下を抜けて指定された部屋へ向かった。
扉を開けると、薄暗い照明と、ソファの合皮の匂いが広がった。
小さなモニターにはPVが流れ、エアコンの低い音が空間を満たしている。
ソファに腰を下ろした悠は、ふと思った。
(……あれ、女子二人に俺ひとりって、なんか浮いてないか?)
悠の心配をよそに、咲も夏海も特に気にしている様子はない。
夏海は当然のようにデンモクを手に取り、「とりあえず飲み物と軽食頼んじゃうね」と、操作を始めた。
注文を済ませると、そのまま歌の選曲画面を開き、迷いなく最近流行りの曲を入れる。
イントロが流れ、夏海の声が部屋に満ちた。
伸びやかで堂々とした歌いぶりに、モニターの映像が少し霞む気がする。
歌い終わると、咲が「わあ、夏海さん、すごく上手」と拍手を送った。
悠も思わず口元を緩める。
夏海は満足げに笑い、「続けて歌っちゃっていい?」と聞く。
咲と悠がうなずくと、二曲目が始まった。
夏海が二曲目を歌っている間、悠はそっとデンモクを手に取り、少し前のドラマで使われた有名な曲を入れる。
モニターに曲名が表示されると、「おー、これ知ってる!」と、歌っていた曲を途中で止め、笑顔でマイクを悠に差し出した。
悠がマイクを受け取ると、夏海は「私も一緒に歌っちゃお」と、もう一本の空きマイクを握った。
最初は少し恥ずかしそうだった悠も、楽しそうに歌う夏海に釣られて声が乗っていく。
その様子を見ていた咲も、次の曲を入れた。
誰でもすぐにわかる、有名なアニメの主題歌。
夏海は「これも歌う!」と笑い、マイクを離さないまま一緒に歌い出した。
高めのテンポに合わせ、夏海の声は軽やかに響く。
(……すごい体力だな)
悠は内心でそう思いながら、画面の歌詞を追った。
また別の曲を夏海が歌っている途中、扉が軽くノックされて開き、店員がトレーを持って入ってきた。
トレーの上には、ポテトや唐揚げ、添え物のレタス。
窓のない小さな空間に、油の匂いとソースの甘い香りが混ざる。
「ここの揚げ物、絶品なんだよ。食べて食べて」
夏海は笑いながらマイクを置き、紙皿に乗せていく。
悠はポテトをつまむ。カリカリほくほくした触感が口に響く。
「ほんとだ、これはうまいね」
「この唐揚げもおいしい……味付けもしっかりしてる」
「でしょー?」
咲と悠の反応を見て、夏海は満足げにけらけらと笑った。
モニターにはまたPVが流れ、室内の照明が放つ光の粒が、音に合わせて静かに揺れていた。
咲と夏海は軽食をつまみながら、なんてことない雑談をしている。
悠は光に照らされている二人を見て、張りつめていた気持ちが音もなくほどけていくのを感じた。
(普段来ない場所だけど……居心地は悪くないな)
きっと、この三人だからだ。
そう思ったけど、言葉にするには照れくさくて、そっと胸にしまった。




