三人の影
図書室に下校のチャイムが響いた後、三人は一緒に図書室を出た。
外に出ると、風はわずかに涼しさを纏っていた。
悠はその風を頬に感じながら、隣を歩く咲に視線を向ける。
咲は夏海と何か小さな話をして、くすっと笑っていた。
昇降口から校門に向かう途中、夏海が小さく声をあげた。
「私、自転車取ってくるね。ちょっと待っててくれる?」
駐輪場に入っていった夏海を、咲と悠は自然に足を止めて待った。
既に駐輪場はガランとしていて、夏海の自転車がぽつんと残っていた。
夏海は慣れた手つきで自転車の鍵をカチャンと外し、そのまま押してきた。
「夏海さん、乗って帰ってもいいのに」
悠が言うと、夏海は「いいのいいの。待っててくれてありがとね」と笑いながら、自転車を押して三人で歩き始めた。
しばらく静かな住宅街を、並んで歩いた。
オレンジ色の夕日を浴びた三人の影が伸びていて、
自転車の車輪が回る音と、足音が混ざって響いていた。
その光景は夏の終わりのようで、少しだけ寂しく感じさせた。
風がすり抜けていくのを感じながら、夏海は少しだけ口ごもって、それから小さな声で切り出した。
「あのさ……私、今日すごい勉強しやすくて……だから、これからも、ふたりと一緒に勉強してもいい?」
咲と悠は、ほぼ同時に顔を見合わせた。
そして、ふたりとも優しい微笑みを浮かべ、穏やかにうなずいた。
「もちろん」
「うん、一緒にがんばろう」
それを聞いた夏海の表情が、一瞬でぱあっと明るく輝いた。
「良かったぁ……!じゃあ、みんなで桜ヶ丘大学に行けるといいね!」
嬉しそうに声を弾ませたあと、夏海はふと自嘲気味に笑った。
「でも私が一番危ないんだよね。……春の模試、E判定だったし」
その言葉に、咲も悠もわずかに表情を引き締める。
そして咲が静かな声で答えた。
「まだ時間あるから……大丈夫だよ。一緒にがんばろう?」
その言葉に、夏海は目を丸くして咲を見つめ、それからまた笑顔でうなずいた。
やがて道は分かれ道になった。
「じゃ、私こっちだから……」
夏海は立ち止まり、ヘルメットをもう一度被り直して、ストラップをパチンと止めた。
「また明日ね!ありがとう、ふたりとも!」
「夏海さん、また明日ね」「気を付けて」
夏海は軽やかな動きで自転車に飛び乗ると、ふたりに大きく手を振って、立ち漕ぎで勢いよく走り出した。
夕陽に照らされるその後ろ姿が、やけにまぶしく感じられた。
咲と悠はしばらく、その背中を黙って見送る。
ひとすじの風が再びふたりの頬をなでていった。




