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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
69/145

不安と夕陽

六月の空は晴れているのに、咲の足取りは重かった。

三年になって初めて受けた模試。

その結果が、今日返ってきたのだ。


教室で先生から配られた封筒。

おそるおそる封を開け、その中から出てきた成績表の右上には、はっきりと「D判定」の文字。


(……こんなに、届かないんだ)


第一志望・国立の桜ヶ丘大学。

まだ「絶対に行きたい」と決めたわけではない。

でも、悠が目指している場所。

一緒に、同じ学校の門をくぐりたいという気持ちは胸のどこかにあった。


何度も成績表の結果に目を通しても、文字が頭の中に入ってこない。

「自分の場所」がこんなにも遠いなんて、思っていなかった。



放課後、咲は重く感じる足取りで図書室へ向かった。

そこには、いつもの席で静かに勉強する悠の姿があった。


悠は顔を上げると咲に気付き、軽く微笑んで小さく手を挙げた。

咲も小さくうなずき、自分も、と席に着く。

だけど、ページは進まない。文字も頭に入らない。

ちらと悠を覗くと、真剣な顔で参考書と問題集を往復している。


(……日向くん、すごい集中してる。なのに、私は……)


咲のペンを持つ手が止まり、そのまま数分が過ぎていった。


「……藤音さん」


顔を上げると、向かいの席の悠が、ペンを置いてこちらを見ていた。


「模試、返ってきた?」


「……うん」


少しだけ間を置いて、咲はためらいながら口を開いた。


「D判定だった。……桜ヶ丘」


「そっか」


悠の声は、いつもと変わらず静かだった。


「……やっぱり、無理なのかなって思った。数学も理科も全然で、足引っ張ってるし……」


言いながら、目の前のノートが滲んで見えた。

ただ焦りと情けなさが胸を占めていた。


悠は少しだけ黙っていたが、やがて言った。


「……Dって、別に悪いってわけじゃないと思う」


咲は思わず顔を上げた。


「……?」


「模試って、あくまで模試だしさ。Dだったってことは、あと少しでCってことだから。全然だめだったら、そもそもDすら取れないから……」


咲は目を伏せたまま、言葉を探すように。


「……日向くんはどうだったの?」


「俺は……B判定。でも、多分春休みの積み重ねが出ただけだと思う」


「……すごいね」


「すごくないよ。ここからどうなるかわからないから、俺も焦ってるし」

そして、悠は少しだけ視線を逸らし、言い淀みながら言葉をつなぐ。

「……だから、その……藤音さんと、一緒に頑張っていけたらいいなって思ってるよ」


悠の言葉が、深く優しく響いた。

咲はその言葉を、胸の奥でゆっくりと受け止めた。


「……うん。ありがとう。そうだね。立ち止まってる場合じゃないよね」


ページをめくり直し、ペンを握り直す。

ほんの少し軽くなった指先で、咲はノートに向かい直した。


そして、向かいに座る悠の姿を、目の端で捉える。


(同じ場所に立ちたい。そのために、少しずつ積み上げていこう)


夕陽が窓から差し込み、ページの端に影を落としていた。

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