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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
68/145

焦りの予感

三年になって初めての中間テストの答案が返ってきた日。

志望校に続いていく道標となる数字を見て、教室の空気は去年よりも重く感じた。

咲も、教室の机にプリントを重ねながら、小さく息を吐いた。


国語は良かった。英語と社会もまずまず。

だけど、数学と理科はまるで歯が立たなかった。

先生が「ここは出すよ」と言っていたサービス問題だけは何とか解けた。ただ、それ以外の応用問題は、ほとんど落としていた。


(……どうしよう。これじゃ、桜ヶ丘は厳しいかも)


答案用紙の角が、少し力がこもった指先でわずかに折れる。


いつもなら、放課後は図書室に寄って少し勉強してから帰る。

でも今日は、その気になれなかった。

バッグを肩にかけて昇降口へ向かう。


ちょうど靴を履こうと腰をかがめたそのとき、背後から聞き慣れた声がした。


「藤音さん、今日は図書室行かないの?」


振り返ると、リュックを背負った悠が立っていた。


「うん……ちょっと、今日はいいかな。テスト、返ってきたばかりだし」


咲の声は、無理に明るくしたつもりだったけれど、自分でもわかるくらい沈んでいた。


「……じゃあ、俺も今日は帰ろうかな。一緒に、いい?」


「うん」


ふたりは並んで校門を出る。

西日が眩しくて、咲は何度か目を細めた。

制服のシャツも少し暑く感じる季節になってきた。


しばらく無言のまま歩いていたが、咲がぽつりとこぼす。


「……私ね、数学も理科もボロボロだった。先生が“ここは絶対出すよ”って言ってたとこしか、解けなかったんだ」


「そっか……。数学も理科も色々公式出てきて、難しいもんね」


「うん、応用に全然あてはめられなくて…日向くんはどうだったの?」


「今回はまあ、そこそこだったかな。理科と数学、点は取れてた」


「へえ……意外。日向くんって、どっちかっていうと文系ってイメージだった」


「そうなのかな?昔から理数は悪くないんだよね。あ、でも今回は社会がかなり取れたよ」


「社会……どれ?」


「政治・経済。今の世の中とつながってるから、なんか覚えやすかったんだよね」


「……なんか、日向くんぽいね」


咲はそう言って、ほんの少し笑った。


二年のころは、成績も同じくらいだった気がする。

むしろ、自分のほうが少し上だった。

だけど今は、明らかに差がついている。


駅の改札で手を振り合って、ふたりは自然に分かれた。


咲は手を振りながらも、ふっと目線を落とした。

心のどこかに、小さな悔しさと焦りが灯っていた。

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