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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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いくつかの景色

進路希望調査票の上で、咲のシャープペンは止まっていた。


ひとまずの希望として、2つの大学を書いていた。

第一希望に、国公立の桜ヶ丘大学

第二希望に、私立の水乃杜大学


どちらも文学部があり、どちらも魅力があった。

ただ、今の咲の学力を考えると、水乃杜大学のほうが現実的かもしれなかった。


窓から差し込む午後の光が、机の上にやわらかく広がっている。

咲は、迷いをそのまま言葉に変えるように、静かに悠へ言葉をかけた。


「日向くんは進路希望書き終わった?」


向かいの席で勉強していた悠が、ペンを止めて答えた。


「俺? 俺は桜ヶ丘大学の法学部。学費も安いしね」


「桜ヶ丘大学かあ……少し難関だよね?」


「うん……簡単ではないかな」


その言い方は淡々としていたけれど、“分かってて選んだ”という明確な意思があった。

悠の成績なら、確かに手が届く範囲にあるのだろう。


「私は……桜ヶ丘と、水乃杜で迷ってて。どっちも文学部なんだけど、雰囲気がぜんぜん違って……」


「まあ、わかる。水乃杜って、おしゃれな感じだよね。パンフとかも、カフェっぽい教室とか」


「うん。すごく素敵。でも、桜ヶ丘には大きな図書館があって……それも惹かれてて。ただ、ちょっと偏差値も高くて……」


咲の声は穏やかだったけれど、そこには確かに揺れがあった。


悠は少しだけ考えてから、静かに言葉を返す。


「俺は……“ここなら、たぶん後悔しない”って思ったから、桜ヶ丘にした。

 最初は消去法で選んだんだけど、……気づいたら、ここがいいかなって。ここに通う自分が想像できた感じ」


咲は、その“想像できた”という言葉に、耳を傾けた。


想像できる未来。

通う自分の姿。

それが見えたとき、きっと迷いは終わるのかもしれない。


「……そっか。そういうの、いいなあ」


「……あとは、まだ先だけど、夏休みにオープンキャンパスに行って比べてからでもいいと思う」

咲の迷いを受けて、そっと手を差し出すように、悠は提案する。


「あ、そっか。行ってから決めても良いんだね」

悠の言葉に、咲はもう一度、進路票に視線を戻す。

今回は、とりあえずで書いた希望。

"オープンキャンパス"

そこに行けば、もう少し先の景色が見えるのかもしれないと思った。

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