いつもの場所で
教室に担任が入り、新年度最初のホームルームが始まった。
「それじゃ、順番に自己紹介してもらおうかな。お互い知ってる人も多いでしょうし、名前と趣味くらいでいいよ」
出席番号1番から順番が進んでいく。
教室の中央付近で、一人の女子生徒が元気に立ち上がった。
「真田 夏海です!趣味はバスケです。体を動かすのが好きです。これから一年よろしくお願いします!」
すると教室の後ろのほうから小さな笑いとともに声が飛んだ。
「趣味っていうか、バスケ部のキャプテンでしょー?」
「あっ、そうだった!ポジションはガードです!」
少し照れたように笑いながら明るく言う夏海に、教室中が和やかな笑いに包まれた。
(元気な人だなあ……)
悠もその空気に自然に笑みを浮かべる。
最初はやや固かった自己紹介の雰囲気も、あっという間に和らいだ。
和やかな雰囲気のまま、悠の順番が回ってきた。
悠はゆっくり立ち上がり、軽く会釈した。
「日向悠です。趣味は読書と動画を見ることです。一年間よろしくお願いします」
静かに着席すると、次の生徒が自己紹介を始める。
新しい教室の空気は、悪くなさそうだと思った。
そのきっかけを作ったのが誰だったのかは、言うまでもなかった。
自己紹介が終わり、先生から一年間の説明が始まった。
配布物を受け取ったり、授業の注意点を聞いたりしているうちに、初日の学校生活はあっという間に終わった。
放課後、悠はゆっくりと廊下を歩いて図書室へ向かう。
扉をゆっくりと開けると、春の午後の光が差し込む静かな空間があった。
窓際のいつもの席に、咲が座っていた。
「日向くん」
咲が顔を上げて、小さく手を振る。
それだけで悠は胸が温かくなるのを感じながら、咲の向かいの席に座った。
「なんか久しぶりな気がするね」
咲が微笑みながらそう言うと、悠も小さく頷いた。
「そうだね……クラス、別々になっちゃったからなあ」
「うん……そういえば、朝の二組、すごく盛り上がってなかった?こっちまで響いてきたよ」
「ああ、バスケ部のキャプテンの人が自己紹介の時に突っ込まれて、それでみんな笑ったんだよ」
悠は少し笑って答えた。
「そうなんだ。元気な人なんだね」
「うん……あと、ちょっと声が大きいかも」
悠が軽く肩をすくめると、咲は小さく笑った。
「ふふ、いいなあ……私、声小さいから、うらやましいかも」
「わかる……俺も、声あんまり通らないからなあ」
他愛のない会話が心地よかった。窓から入る陽射しが、机の上で静かに揺れている。
帰り際、図書室のカウンターに秋がいた。
悠たちに気づいて静かに頷く表情が、「いつでも来てください」と言っているように見えた。
悠は咲と並んで廊下に出た。
並んで歩く二人の間を、新しい季節の風が心地よく通り抜けていった。




