春休みの合間に3
「で、ホワイトデーは? 日向くん、何くれたの?そのミニタオル?」
ポニーテールの子が早速食いついてきた。
「うん、まだそっち聞いてないよね」
メガネの子が、興味津々という表情を隠さずに頷く。
咲はミニタオルを両手で包み込むようにして、小さく微笑んだ。
「うん。ミニタオルと……あと、お菓子も一緒に。焼き菓子のセットだったかな」
「ああ、だからそのタオルなんだね。日向くん、センス良いなあ」
ショートヘアの子が、少し感心したようにタオルを眺める。
「日向くん、絶対ひとりで決められないと思うんだけど?」
ポニーテールの子が、にやにやしながら言った。
「うん、分かる。たぶん誰かに相談してない?これ」
メガネの子が深く頷いて続ける。
咲は、そこで首を傾げる。
「……そうかな?」
「うん、そうだよ。焼き菓子もだけど、ミニタオルみたいな消え物じゃないのを選ぶのとか、ちょっと日向くんっぽくないっていうか……」
メガネの子が真剣な顔で分析を始めた。
「日向くんなら……クッキーか、キャンディぐらいで迷って、でも決めきれなくて店員さんに聞いた、とかじゃないかな?」
「あ、それあるかも!『高校二年の女子にあげたいんですけど』って感じで!」
メガネの子が声を出して笑った。
「で、店員さんが『じゃあ、焼き菓子なら間違いないですよ』とか言ったんじゃない?」
「……そんなものなのかな?」
咲は驚き半分、困惑半分の顔でみんなを見る。
ポニーテールの子が、真剣に推理モードに入っている。
「絶対そう。でさ、きっと日向くんが迷ってるの見て、店員さんがタオルも勧めたんだと思う。
『食べ物だけじゃ物足りないなら、これ付けるとかわいいですよ』って」
「そうだよね。日向くん、残るものは選ばなそうだもん」
ショートヘアの子が頷きつつ重ねる。
「その店員さん、割と若いんじゃない?高校生のバイトとかさ」
「ああ、ありそう。日向くんも同年代なら相談しやすそうだし」
「いや、まさか同年代の女子にそんな相談できないでしょ……。大学生くらいのお姉さんじゃない?」
メガネの子が冷静に分析を返す。
「……ああ、でもそれも確かに」
ポニーテールの子が少し考えてから納得する。
「でも、日向くんって優しいから、ちゃんと咲のことを考えて相談したんだろうね」
ショートヘアの子が、咲のほうを向いて優しく笑顔を添える。
咲もタオルを眺めながら、小さく微笑んだ。
(……本当は、どうだったんだろう?)
ふと思ったけれど、悠にわざわざ聞くようなことでもない気がした。
大事なのは、悠がこれを自分のために選んでくれたということだけだから。
そんな咲を見て、メガネの子がふと口元を緩めた。
「まぁ、真実は分からないにしても、日向くんは咲ちゃんのことを一生懸命考えたのは間違いないよね」
咲はゆっくりと頷いた。
友達の予想が当たっているかどうかはわからない。
ただ、悠が選んでくれたこのタオルは、これからもずっと大切にすることは確かだった。
「……あ、もうこんな時間」
メガネの子が入口の方を見て、声を上げた。
ふと視線をやると、名前を書いて並ぶ人の列ができはじめている。
「ほんとだ、やば。もう並んでる人も出てきてる。場所開けないと」
ポニーテールの子が慌てて立ち上がりながら、使い終わった皿をまとめはじめる。
「会計だけど、個別だと時間かかるから……」
「うん、いったん私払っちゃうね。あとで私にちょうだい」
ポニーテールの子が軽く手を振って笑いながら、レジへと向かっていった。
レジを済ませて店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
四人それぞれが荷物を肩にかけて、並んで歩き出す。
「じゃあ、また連絡するねー」
ポニーテールの子が手を振ると、他の子たちも「うん、またね」と笑い合う。
咲は、手の中のミニタオルをもう一度握った。
柔らかな刺繍の感触が、今日の空気と同じくらい、あたたかかった。




