気持ちのかたち8
ガタン、と図書室のドアが開く音が響いた。
ふたりは思わず視線を向けると、重そうな段ボールを抱えた秋が、バランスを崩さないように慎重な足取りでカウンターへと向かっていた。
そのまま何も言わずにカウンターに座り、運んだ段ボールから書籍を取り出し、
一つずつ検収確認を始めた。
「……あ、じゃあ私、戻るね。」
「……うん。ありがとう」
咲はいつもの席へと戻っていく。
悠の隣からわずか数歩だが、その足取りは軽くなっていた。
悠は受け取った袋を自分のリュックの上に置き、斜め向かいに座った咲の方へ目をやる。
咲は席に戻り、本を開いていた。
「……藤音さん。この猫さ、たまにノートに書いている子だよね」
咲ははっとした顔で悠の方を見て、すぐに照れたように笑った。
「うん。ばれた?」
「うん、だって俺、あれ好きだったからさ」
悠は袋に目を向けながら、そう言った。
咲の描く猫は、どこか抜けてて、優しい顔をしていて、好きだった。
「……ふふっ、ありがとう」
以前、悠があの猫を見て、笑ってくれていた。
それを覚えていてくれたことが、胸の奥まで沁みた。
咲の数日間の頑張りが、すべて報われた気がした。
「このトリュフ……もしかして手作り?」
「うん。あの、あんまり上手にできてないかもしれないけど……」
「そんなことないよ。お店のやつかと思った……おいしそうだもん。」
悠が素直に褒めてくれるのがくすぐったくて、でもうれしくて。
しかし。
「でもこのチョコレート、食べられるかな」
「えっ!?あ……」
その言葉に、背筋がひやりとした。
チョコが苦手なのか、または、手作りが受け付けなかったのか。
……いらなかったのかな。
そう思った瞬間、さっきまでの嬉しさが、すっと色あせた。
「……あの、苦手なら、無理に食べなくてもいいからね…」
「あ、ごめん!そういう意味じゃなくて……なんか、食べるのがもったいなくて……」
悠は自分の言葉のまずさに気付いて、慌てて訂正した。
「え……なんだ……って、悪くなる前に食べてね?できれば早めに……」
咲は安堵して、笑いながら言った。
自分が贈ったものを、そんなふうに大事に思ってくれたことが、ただただ嬉しかった。
「もちろん、ちゃんと食べるよ。味わって」
そう言って、悠も笑った。
いつも通りの会話のやり取りだけれども、
咲と悠の間には、昨日までとは違った空気が流れていた。




