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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
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気持ちのかたち5

放課後の図書室に他の生徒の姿はなかった。


カウンターの奥では司書教諭の秋が静かに貸し出し管理用のパソコンを操作している。

ふたりの姿に気付いた秋は、軽く微笑んで、柔らかく会釈をした。

咲と悠も、それに倣って軽く会釈を返した。


咲と悠は、いつもの窓際の席に座った。

いつも通り、咲の斜め前に座る悠。

いつも通り、ふたりはそれぞれ本を開いて。

いつも通り、言葉は少ないままだった。


咲のカバンの中には、ラッピングされたチョコレートと、猫の顔が描かれたメッセージカードが収まっていた。



(……いつ渡そうかな)

咲は本を読みながら、タイミングを図った。


今なら、他に生徒は誰もいない。

秋も、カウンターの向こうでパソコンに向かっていて、こっちを見ていない。

だけど、一歩が踏み出せなかった。


(……もう少ししたら、渡そう)


咲は自分にそう言い聞かせて、ページに目を戻した。

だけど、そこにある文字は、もうほとんど目に入っていなかった。


(……そっと出して、渡すだけ)

ただそれだけのはずなのに。


多分、悠は受け取ってくれる。喜んでくれるかもしれない。

「ありがとう」って笑ってくれるかもしれない。


でも、もしも……

迷惑そうだったら。

あるいは、受け取られなかったら……。

そうなったら、この時間はもう……。


(……こわい)


急に、どうしようもない不安感が真っ黒に胸を覆いつくしてくる。

悠にいつものように声をかけることすら、できそうになかった。

だんだん瞳が揺れるような感覚になり、それが怖くなって、思わず目をぎゅっと瞑る。


そのときだった。


秋がパソコンをパタンと閉じて、椅子を引いた。

咲は思わず目を開けて、音のする方へ振り返った。

悠も同じように視線を向けていた。


秋は眼鏡のフレームの中央を指先で静かに押し上げてから、数冊の本を脇に抱えてそのまま図書室を出て行った。

ドアが静かに閉められ、図書室に残されたのはふたりだけになった。


心臓の音が、自分だけに聞こえている。


(……いまなら)


咲の胸の内に、もう一度、小さな灯が灯ったような気がした。

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