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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
50/145

気持ちのかたち4

カーテンの隙間から差しこむ光が部屋をやわらかく照らし始めるころ。

咲の部屋に朝を知らせる電子音が鳴り響いた。


冷えた部屋。

咲は布団から腕だけを精一杯伸ばし、ストーブの電源を入れる。


枕元の棚には、昨日綺麗に包んだチョコレートのラッピング。

冷えきった空気が、チョコレートにはちょうどいい環境になっていた。


ストーブが頑張って部屋を暖かくしたころ、咲はもそもそと布団から出る。

リビングに行き、お母さんが用意してくれた朝ご飯を食べる。

洗面所で顔を洗い、歯を磨き、髪の跳ねを直す。

部屋に戻って、登校の準備をする。

そのどれもが、いつもの日常の動作。

ただ、今日は、身なりに少しだけ気を使っていた。


咲はラッピングをそっと手に取る。

本当は紙袋か何かに入れた方が確実だけど、いかにも“持ってきてます”って感じがして、気が引けた。

それでも、潰れたり、曲がったりしないように、

カバンの奥に居場所を作って、そこに収めた。


コートを羽織って、準備は終わった。

玄関で靴を履きながら、もう一度持ち物を確認する。


大丈夫。忘れ物は、何もない。


咲は玄関のドアをガチャリと開けて、「行ってきます」と家の中に声をかけた。


咲の特別な一日が始まる。



いつもの電車は、今日も混んでいた。

席に座れた咲は、カバンを膝に乗せたまま、小さく抱きしめる。

(……大丈夫。潰されてないはず)

いつもはスマホを眺めている時間だけど、今日の両手はカバンを守るので精いっぱいだった。



駅から出て、学校へと向かう道のり。

晴れた空の日差しは、いつもよりも少しだけ澄んでいた。


寒さは相変わらず厳しいが、マフラーの下が少し熱くなっているのを感じた。


朝の教室。

まだ生徒はまばら。


咲が教室に入って席に座っていると、登校してきたばかりの悠と目が合った。

少しだけ、心臓が跳ねた気がする。


「おはよう、日向くん」

咲は、できるだけいつもどおりの声で話しかける。


「……おはよう、藤音さん」

悠は、一瞬視線をそらしながら答えた。


(……もしかして、ちょっと意識してる?)


咲はそう思って、つい視線を自分のバッグに向けた。

中には丁寧にラッピングされた、小さな袋がひとつ入っている。


授業が始まると、先生の声と、チョークの音が響く。

咲は黒板の文字を写しながらも、どこか上の空だった。


(……いつ渡そう。やっぱり図書室かな。日向くん、来るよね……?)

(なんて言って渡せばいいんだろう……昨日は渡せる気がしてたのに……)


ぼんやりと考えていたら、いつの間にか教科書は次のページに進んでいて、咲は慌ててページをめくる。

なんだか、今日は授業に集中できそうになかった。


昼休み。

友達とご飯を食べながら、チョコの話が少しだけ出た。

でもみんな、お互いに深く詮索するような話はしなかった。

それだけで、周囲の空気のどこかに“特別な日”の匂いが漂っている。


咲はカバンの中を、ちらと見た。

奥にある袋の存在を、確認するだけ。


(渡せなかったとしても、持ってきたことに意味がある。……そう思いたい。

だけど、渡せなかったら、きっと後悔する。だから……やっぱり、渡したい)

昨日まで準備してきた自分から、勇気をもらいたかった。



そして、放課後はあっという間にやってきた。

思い切って、悠に話しかけた。


「日向くん。今日も、図書室行く?」

いつもかけているような言葉。なのに、今日は午前中から何度も考えていた言葉だった。

もしも行かないと言われたら……その先のことは考えていなかった。


「……うん、行くよ」

悠の言葉は少し詰まったように聞こえた。それが照れ隠しなのか、戸惑いなのかはわからない。

だけど、行くと言ってくれた。それだけで、少しだけ安心した。


「じゃあ、行こっか」


ふたりはいつものように、一緒に図書室へ向かった。

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