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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
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気持ちのかたち2

咲は、買ってきたチョコレートの箱を自室の机に置いた。

中には、選び抜いたオレンジピール入りのトリュフ。

少しだけ背伸びしたような、甘さを抑えた香りが箱越しにほのかに漂う。


(……これでいいのかな?)


時間をかけて選んだ。

見た目も、香りも、包装の雰囲気も、ぜんぶ、悠に似合いそうだった。

店内で何度も迷って、ようやく「これだ」と思えたもの。


そう思っていた。なのに。


(……やっぱり、作ってみたいかも)


心のどこかでずっとそう思っていたのかもしれない。

けれど「うまく作れなかったらどうしよう」「本気って思われて、引かれるかもしれない」と、

そんなことばかり考えて、見ないふりをしていた。


でも今は、少し怖くても、やってみたいと思った。



次の日。

授業が終わり、図書室に少しだけ顔を出して、すぐに帰ることにした。

悠には、「今日は用事があるから先に帰るね」とだけ伝える。

バレンタインが近いこともあり、勘づかれている気もして、

なんとなく、悠の顔を見るのが少しだけ気恥ずかしかった。


早足で歩いた帰り道は、いつもよりも短く感じられた。


いつもの帰り道から少しだけ外れて、大きなスーパーに寄ると、

駐車場は帰宅途中の車が混みあっていた。


製菓コーナーに行くと、空っぽになった列がいくつか見受けられる。


(……どんなチョコにしよう)


悠に似合うのは、

あまり飾りすぎないもの。

シンプルで、甘すぎないもの。

そんなチョコが、いい。


(スタンダードなやつ。形は……小さめがいいかな。やっぱりトリュフかな)


昨日買ってきたのも、オレンジピール入りのトリュフ。

見た目は被るけど、食べやすくて、ひとくちで終わる。

……何より、凝った作りじゃないから失敗はしにくい、と思う。



棚に残った商品から、小さな板チョコ、粉砂糖、ラッピング用の袋。

そして冷蔵コーナーで、生クリームもひとつ。

少しだけ迷って、ひとつずつ丁寧に選んで、レジに並んだ。


きっと店員さんからは、「あ、この子はチョコレート作るんだな」と思われたかもしれない。

……なんて思ったら、ほんの少しだけ、体温が上がった気がした。



急いで家に帰ってから、すぐにキッチンの片隅に立った。

夕食の支度をしていたお母さんは、深くは聞かず、小さな作業スペースを開けてくれた。

チョコレートを湯せんすると、ボウルからチョコレートの香りがやわらかく立ち上る。


咲は静かにスプーンを動かしながら、

その香りごと包むように気持ちを込めていた。


(たくさんじゃなくていい。少しでいいから、ちゃんと伝わるように……)


スマホのレシピとボウルを何度も往復する。

時々、お母さんがそっと助言をくれる。

本当は全部気づいてるんじゃないかと思うくらい、さりげなくて優しかった。

そうしてできあがったチョコの生地を、冷蔵庫に入れた。


(……失敗したら、買ってきたほうだけ渡そう。うまくできたら、一緒に渡そう)

そう決めて、咲は息を整えた。



冷やす間、テレビの音や食卓の会話が、どこか遠くに感じられた。

咲の頭の中は、冷蔵庫に入れたチョコのことでいっぱいだった。



食器洗いの音が背後で聞こえる中、冷蔵庫から取り出したチョコレートをスプーンですくい、

手袋をして丁寧に丸める。

ころころと、小さなトリュフが出来ていく。

その表面に、少しだけ粉砂糖を振りかけた。


(日向くんが好きな味だといいな)


全部、指でつまめるサイズ。

食べてみる。うん、おいしい……かな。

甘すぎなくて、口に入れるとほのかな香りが広がる。

お母さんにも食べてもらうと、「優しい味ね」と笑ってくれた。

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