周りの視線2
放課後、少し開いた窓から冬の風が容赦なく吹き入れ、廊下は冷えていた。
少しだけ息が白くなるのを感じながら、咲は図書室へと向かう。
いつもの窓際の席に座り、借りた本を読む。
まだ悠は来ていない。
そのとき、ふと声をかけられた。
「藤音さん。日向さんは、今日は来ないのですか?彼が予約していた本が届いたのですが……」
落ち着いた、やさしい声。秋がいつの間にか向かいに立っていた。
咲は思わず、一度だけまばたきをした。
「え……あ。いえ、たぶん、情報の課題をやるって言ってたので、今はパソコン室にいると思います。
なので、終わったら来るんじゃないかと……」
戸惑いを隠すように答えながら、
“たぶん”という言葉に、自分でも気づかないうちに、妙な確信が混ざっていた。
悠がこの場所に来る未来を、自分の中で当然のように思っていた。
秋は、咲の返事に軽く頷いた。
「ありがとうございます。そうですか。では、そのうち来ますね」
そう言って、秋はカウンターへと戻っていった。
深く追うことも、詮索することもなく。
咲は、手元の本へ視線を戻す。
だけど、数行読むごとに、頭の中には秋の言葉がふっと蘇ってしまう。
『藤音さん。日向さんは──』
(……私に聞くってことは……やっぱり、私と日向くん、"ふたりでワンセット"って思われてるんだ)
その事実に、気づきながら気づかないふりをした。
そして、
図書室のドアが、静かに開く音。
咲は、顔を上げない。でもわかってしまう。
優しくドアを閉める音。
静かな足音。
咲は顔を上げて確認した。
いつものように、悠が来ていた。
そのタイミングで、カウンターの奥にいた秋が、悠に声をかけた。
「日向さん、予約していた本、届きましたよ。借りていきますか?」
「あ、借ります、ありがとうございます」
そういって、悠は、カウンターに向かって秋から本を受け取った後、
ごく自然にいつもの席、咲の斜め向かいの席に向かう。
悠はちらりと咲を見てから、静かに椅子を引いて、腰を下ろした。
咲はそっと話しかける。
「……日向くん」
「ん?」
「今日は少し遅かったね。情報の課題やってたの?」
念のため、確認してみた。
「あー、うん。パソコン苦手でさ。放課後まで時間かかっちゃったんだよね」
その言葉は、咲が誰よりも彼の近くにいたことの証明だった。
(……やっぱり……)
その事実に、思わず咲は顔が熱くなった気がして、ページの影にそっと顔を隠した。
「そ、そっか……お疲れさま」
「……?うん、ありがとう」
本の隙間からそっと視線をのぞかせると、
悠は少し不思議そうな顔でこちらを見ていたが、すぐに借りたばかりの本に視線を落としていた。
咲は小さく息を吸って、
また手元の本へ視線を戻した。
文字に目を滑らせる。
文字を追ってはいるけれど、内容はほとんど頭に入っていなかった。




