日常のまなざし3
冬の陽が落ちるころ、下校のチャイムが鳴った。
図書室からはもう、人の気配がほとんどなくなっていた。
悠は本を閉じ、それを静かにリュックにしまう。
咲も本にしおりを挟みこみ、カバンにしまった。
会話は無いまま、椅子を同時に引く音が響いた。
カウンターでは、司書教諭の秋が、貸し出し・返却用のノートパソコンを操作し、
大量の返却本を一冊ずつ処理していた。
ふたりがカウンター近くを横切ると、秋はわずかに顔を上げ、
「お疲れさまでした。ふたりとも、気を付けて帰ってくださいね」
と声をかけてきた。
それを聞いた咲は微笑みながら「ありがとうございます。失礼します」と頭を下げる。
悠も続いて「……失礼します」と声を返した。
秋はそれ以上は何も言わず、静かにふたりを見送った。
咲と悠が靴を履き替えて校舎を出ると、風がひときわ冷たく感じた。
夕焼けはもう沈みきって、空にはかすかに星が瞬きはじめていた。
帰り道の住宅街でも、ふたりの足は並んでいた。
「……寒いね」
白い息を吐きながら、咲がつぶやいた。
ただそれだけなのに、咲の声が、いつもよりもずっと胸の中に響いてくる。
「うん……まさに冬って感じ」
話している時間よりも、黙っている時間が長い、いつもどおりの、ふたりの帰り道。
すでに暗くなった空の下、大通りへ続く細い道。
街灯は、ふたりを優しく照らしていた。




