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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
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日常のまなざし2

放課後。

たくさんの返却本でいつもよりも存在感のあるリュックを背負って、悠は図書室のドアを押した。


中は静かだった。


冬休みの間に少しだけ積もった埃っぽい香りが、静かな図書室に漂っていた。


奥の窓際、いつもの席。

咲はすでに来ていた。


うつむいてページをめくるその姿は、冬の光に包まれて、

まるで風景の一部みたいに感じて、一瞬見とれてしまった。


悠は本を返却棚にそっと並べた。

そして、咲の斜め向かいまでゆっくりと歩みを進めた。


(落ち着け、いつもどおり、自然体でいいんだ)


頭の中はずっとうるさかったが、静かにいつもの席に座れた、と思う。

一瞬だけ咲の方をちらりと見ると、咲もちらりと目を上げて、微笑んだ。

それだけで、また鼓動が一拍、大きくなった。


悠も、小さくうなずいた。


そしてリュックから途中まで読んでいた本を開いた。

会話はない。時々ページをめくる音だけが、ふたりの間に流れていた。


外では冷たい風が吹いていても、

時折、窓の向こうで鳥の影が横切っても、

部活の声で廊下が一瞬騒がしくなっても、ここはいつもどおりだった。

何も特別なことは起きない、いつもの日常に戻ってきた。


(……戻ってきたはず、なんだけど)


たぶん、自分は変わってしまった。


ふと視線を上げたとき、

本を読む咲の顔がきれいだと思った。


なんだか気恥ずかしくて、見ているのに気づかれないように目を逸らした。

「意識しないように」と思っているのに、手のひらの感覚や、

年越しのメッセージが頭をよぎってしまう自分がいた。


(たぶん、もう、俺は……)


その気持ちに、とっくに気づいていた。

でも、この空気を壊したくない。


咲の近くが、

“落ち着く場所”から、

“離れたくない場所”になっていたから。




そして、咲のほうはというと。

本を読みながら、時折悠のほうに視線を向けていた。

悠は落ち着いた様子で本を読んでいた。時々、ページをめくる音が聞こえてくる。


(……日向くんは、いつも通りだね)


少し安心した。

冬休みの間、会わなかった時間がほんの少しだけ不安だったから。


でも、教室で顔を合わせて、こうしてまた図書室に来て、変わらない。

……と思いたいけど、少しだけ違うような気もした。


冬のイルミネーションでつないだ手の感触。

年越しのメッセージ。

悠の返信がいつもより早くて、文の最後に「うれしかったよ」って書いてあったこと。


それらすべてが、咲を何度も微笑ませた。

同時に、自分の中で、悠への気持ちが少しずつ変わっていくのを感じていた。


今この瞬間を、ふたりは大切に味わっていた。

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