新年の攻防
悠は、自分の部屋でスマホを手にしたまま、ソワソワしていた。
年末を知らせる紅白の音だけがリビングから聞こえてくる。
(すぐ送るか……ちょっと待って送るか……やっぱ送らないか……)
スマホの時計を見る。
23:55。
下書き欄には「あけましておめでとう。今年もよろしく。」
シンプルだけど、それ以上の文が思いつかない。
(これ、硬い? そっけない? でも、長すぎても変だし……)
悩んでいるうちに、時計は23:59を表示している。
決めきれずに、スマホを持ったまま深呼吸。
そして、00:00。
その瞬間。
「……えっ」
画面に、通知が表示された。
咲:
「あけましておめでとう。今年も、よろしくね。」
(ま、まじか)
まさかの先手。
しかも、送信時刻はピッタリ午前0時。
悠は一瞬固まり、すぐに返信を打つ。
悠:
「あけましておめでとう! 先に送られるとは……
なんか、ちょっと悔しいかも。」
1分も経たずに、咲からの返信。
咲:
「ふふ。私も、最後まで迷ってたよ。
でも、なんか今年は……自分から言ってみようかなって思った。」
その一文に、悠の胸が妙にざわついた。
(……“なんか今年は”?)
その言葉に、たぶん深い意味はない。
ないと思うけど、想像が膨らんでしまう。
自分がその理由の一部だったらいいのに、と思ってしまう。
悠:
「そっか。……送ってくれて、うれしかったよ。」
と打って、送ったあとに気づく。
(“うれしかったよ”? なに言ってんだ俺……)
もう、返信の間なんて気にしてる余裕もない。
さっきまで冷静に構えていたつもりの自分が、咲によってどんどん崩れていく。
またすぐに、咲から、メッセージが一つ送られてくる。
咲:
「冬休み終わったら、また図書室でね。
風邪ひかないようにね?」
そのあとスタンプが送られてきた。
可愛らしい女の子のキャラクターが、心配そうな顔でこちらを見ている。
そのひとことに、
悠はスマホを見つめたまま、しばらく言葉が出なかった。
(……なんだこれ)
胸の奥が熱い。
でも、心地いい。
悠:
「うん。また図書室で。
そっちこそ、風邪ひかないようにね」
その文を送信してから、スマホを伏せた。
しかし、すぐに通知が鳴る。
終わりだと思っていたから、どうしても心が踊ってしまった。
咲からスタンプが送られていた。
「ありがとう」とお辞儀する柔らかいイラストのネコ。
そして、メッセージ。
咲:
「ありがとう。じゃあ、ゆっくり休んでね。よいお正月を」
悠は、スタンプを一つ。
「ありがとう」と吹き出しの付いた、漫画のキャラクター。
そのスタンプを送信してから、またスマホを伏せた。
今度は通知は鳴らなかった。
鳴らないスマホの静けさに少しだけ物足りなさを感じながら、
枕に顔を埋めて、またひとりで悶えた。




