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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
39/145

冬の光4

駅前広場をあとにして、ふたりは駅へ向かう通りを並んで歩いた。


街灯の下を、影がふたつ、伸びたり縮んだりしていた。


咲は黙っていた。

それは気まずさからではなく、余韻を味わっているような静けさだった。


悠はというと……

まだ頬の赤さが消えないまま、歩くペースを保つのに必死だった。


さっき咲の手を握ったときの感触。

そのあと、咲に微笑まれて、からかわれたような言葉。

思い出すたびに、ポケットの中の手がムズムズする。


(……落ち着け、俺。もう離してるし、なんでもない、ただの冬の寄り道……)


と、自分に言い聞かせて平静を装うとするものの、

隣で歩く咲の存在が、それを簡単に打ち壊していく。


ふと、咲が口を開いた。


「……イルミネーション、きれいだったね」


「うん……すごく」


短い返事しかできない自分に、悠は内心で苦笑した。


それでも咲は、特に気にする様子もなく、

少し上を向いて続けた。


「冬って、空気が冷たい分だけ、光がよく見える気がする。……なんだか、遠くまで届く感じ」


「……ああ、わかる。今日のも……なんか、忘れられなさそうだよな」


咲がちらりと悠を見た。


「うん。……私も、たぶんずっと覚えてる」


声は小さかったけれど、まっすぐだった。

その言葉に込められた意味は、きっとふたりとも同じものだった。


それ以上、会話は続かなかった。

でもそれで充分だった。


やがて駅が近づき、ふたりは改札機の前で立ち止まる。


人の流れが絶え間なく行き交う中、そこだけ少しだけ、空気が緩む。


「今日は一緒に行ってくれてありがとう。じゃあ、またね」


「うん。俺も行けて良かった。……じゃあ、また、休み明けに」


いつもの別れ際のやりとり。

それなのに、なぜか少し照れくさい。


咲が小さく姿勢を正して軽く頭を下げ、悠も真似してぺこりと頭を下げた。

互いに笑いそうになって、ちょっとだけ目が合う。


「……風邪、ひかないでね」


咲が、手袋の裾を引き直しながら言った。


「そっちも。……ありがとう、いろいろ、楽しかった」


「ふふ、なにが“いろいろ”なのか、あとで聞かせてね」


また、軽く笑われてしまった。

悠は、彼女には勝てないなと思った。

でも、それに反論せず、今度はちゃんと笑ってみせた。


小さく手を振って、咲は改札機を通って行った。

悠は、離れていく咲の背中を見つめていた。そして、それは人波に紛れて見えなくなった。


悠の手には、手袋越しの柔らかいぬくもりが、まだ残っている気がした。

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