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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
38/145

冬の光3

ふたりはイルミネーションのアーチに近づいた。


無数の白い光が淡く広がり、内部には紫色の光がゆるやかに揺れている。

人が多く混みあっており、近づくほどに人の流れはゆっくりになっていった。


「……すごい混んでるね」


咲が小声でつぶやいた。悠は周囲を見渡し、小さくうなずく。


「うん。でも、ちょっとずつ進んでるよ」


言いながら悠は、咲の横にぴったりと立ち、歩く速さをそっと合わせていた。

イルミネーションのアーチの入口に入ろうとしたとき。


「きゃっ……」


咲が小さな声をあげた。

人波の揺れに押されてバランスを崩した。



とっさに、悠はポケットに入れていた手を伸ばした。

指先に柔らかな感触が広がる。


咲の手だった。


咲の柔らかい手袋越しに感じる、自分よりも小さく、細い指の感触。

その手を掴んで、咲を支えた。

悠は、自分が何をしたのか理解したが、すぐには手を離せなかった。


「あ……ごめん、つい……」


慌てて謝る悠の顔は赤く染まっている。

咲もまた、頬をほんのり赤らめながら、でも小さく首を横に振った。


「……ううん。ありがとう」


かすかな声が空気に溶けるように消えていく。


手は繋いだまま、人混みの中をふたりは歩く。

でもふたりは、そのことを口には出さずに、光のアーチの中をゆっくりと進んだ。


やわらかな白い灯と紫の灯が、ふたりに降り注ぐ。

悠の指に伝わる咲の手袋の感触と、その奥にあるわずかなあたたかさが、胸の奥で静かに揺れていた。

咲の手からも、少しだけ、握り返すような感触があった。


手を離すタイミングがつかめないまま、互いの鼓動だけが早くなる。


(……どのタイミングで、離せばいいんだろう)


(……手、離したほうがいいのかな)


そんな心の声が重なり合うように、ふたりは無言で人混みを抜けていった。

今のふたりに、イルミネーションに意識を向ける余裕なんて、まるで無かった。


そして、アーチの出口に差し掛かったとき。

人の流れもばらけて、自然に、ふたりの手もほどけていく。

指先が離れていき、手袋越しの柔らかいぬくもりが離れた瞬間、なんとも言えない沈黙が落ちた。


咲がふと顔をあげる。

悠は、咄嗟に目を逸らしていた。耳のあたりまで真っ赤になっている。


「あの、ごめん……その、今のは……」


何を謝ってるのか自分でもわからないまま、

悠は言葉を手探りしていた。

手がまだ、どこかソワソワして落ち着かない。


そんな悠を見て、咲はくすっと笑った。


「謝ることじゃ……私、うれしかったよ?」


「えっ……いや、俺も……じゃなくてっ……!」


「あれ?」

咲が首をかしげる。

「じゃあ、いやだったの?」


「ち、ちがう! ちがうけど、そうじゃなくて……!」


完全にペースを乱されている悠。

それが可笑しくて、咲はもう一度、今度は声を漏らして笑った。


「ふふ……」


悠は肩を落としながらも、つられて口元を緩める。

それからそっと、咲の方を見た。

目が合うと、咲は優しく笑って、小さくうなずいた。


「……ありがと、日向くん」


そのひとことが、また悠の顔を真っ赤にさせる。

だけど今度は、何も言い返さずにただ、小さくうなずいた。


ふたりはそのまま、ゆっくりと歩き出す。

背中にイルミネーションの灯りを受けながら。

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