冬の光2
駅前に近づくにつれて、人の流れは緩やかに増えていく。
人々のざわめきと笑い声、そしてどこか遠くから聞こえるクリスマスソングが、
冬の空気に溶けて、あたたかく響いていた。
悠と咲が歩いてきた通りの先には、
一面に広がるような、やわらかな金色の光が見えはじめていた。
近くの道路の信号機が変わるたびに、誘導員が拡声器で秩序を保っていた。
「うわぁ…」
咲の口から、小さな声が漏れた。
二人が向かうその先は、
毎年この時期だけライトアップされる、駅前広場だった。
道路の中にある街路樹の歩道や広場の木々に絡められた無数の小さな電球が、
冷えた冬の空気のなかで、煌びやかに輝いている。
「……改めて見ると…きれいだな」
悠も素直に、そうつぶやいた。
たくさんの人だかりに紛れてふたりの歩幅は自然と小さくなり、
気づけば肩を並べてゆっくりと歩いていた。
イルミネーションの柔らかな光は、
透明な冬の空気を通して、ひとつひとつ丁寧に輝いている。
二人の視線は、広場に置かれた、光のアーチへと吸い込まれていった。
そこは白い光が降り注ぐトンネルのようで、中には藤の花をモチーフにした紫色の電飾が吊るされていた。
人々は足を止め、スマホで写真を撮ったりしている。
咲もまた、その光景に目を奪われるように立ち止まった。
「ほんときれい……」
咲が、小さく息を飲むように言った。
悠は少しだけ横を向き、
イルミネーションを見つめる咲の横顔をちらっと見た。
咲の顔はやわらかいイルミネーションの光に染まっていて、
その表情は素直で、透き通った瞳に光が優しく揺れている。
寒さのせいか頬がほんのり赤く、
いつもよりやわらかく笑みを浮かべているように見える。
……こんなふうに、彼女の横顔をゆっくり見ることなんて、
これまであっただろうか。
悠は雑念を払う様に頭を軽く振って、
でも、もう一度、そっと咲の横顔に目をやった。
その瞬間、咲がふっと視線をこちらに向けた。
「あ、えと…なんか、すごい綺麗だね」
悠は慌てるように目を逸らした。
どっちとも取れるような言葉をつぶやいたことに気付き、冷えているはずの顔が急に熱くなった気がしたからだ。
「……ね、綺麗だよね」
咲は、ふいに言葉を返してくれた悠を見て、ふっと笑った。
ほんのすこし、彼の顔が赤く見えたのは、寒さのせいだけじゃないかもしれない。
ふたりの目線の先では、光が静かに揺れている。
「ね、もっと近くに行ってみない?」
子供っぽい笑顔で咲が言った。
「うん」
悠は短く答えた。
それ以上は、何も言わなかった。
言葉よりもずっと確かに、ふたりの間に流れる空気が、
いま、この瞬間を大切なものにしていた。
ゆっくりと歩き出した先に、
やわらかな光が、いっそう強く輝いていた。




