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ペンケースのかたち
ふたりで本屋に行ってから数日が経っていた。
窓の外は、夕暮れ前の灰色に染まりかけていた。
冬の風が遠くの木々を揺らし、図書室の中には、静かなあたたかさが満ちていた。
いつもの窓際の席。
ふたりはそれぞれ宿題に向かい合っていた。
ふと、悠の視線が、咲の前で止まった。
見慣れていたはずのペンケースが、変わっていることに気付いた。
淡いグレーの布地。
前と似ているようで、形は少し大きくなっている。
猫の顔の刺繍はなく、その代わり、
端に、ちいさな猫の肉球の刺繍がひとつ浮かんでいた。
「ペンケース、変えたんだ」
自然に漏れた悠の言葉に、咲は手を止め、軽く顔を上げた。
「うん。前のと似てるやつにしちゃった」
そう言って、咲はそのペンケースにそっと指を添えた。
新しいはずなのに、まるで昔から使っていたような、やわらかい手つきだった。
「やっぱり猫繋がりなんだ。前使ってたやつも可愛かったけど、それも良いね」
咲は、少しだけ照れたように笑った。
悠はそれ以上、何も言わず、ふたたび宿題へと視線を戻した。
そのわずかな会話のあと、
机の上に流れる空気は少しだけ、あたたかくなっていた。




