ふたりの帰り道2
悠は会計が終わり、ふと咲の方を見ると列に並んでいた。
咲の会計を待つあいだ、悠は少し歩いた。
文具コーナーのある一角。
本屋の端にある、小さな棚。
ペンケースやノート、付箋やペンが整然と並べられている。
なにかを探していたわけじゃない。
ただ、足が自然とそこに向かっていた。
ふと、棚に並んだあるものに気付いた時、足が止まった。
グレーのキャンバス地に、小さく猫の刺繍が入ったペンケース。
壊れてしまった咲のペンケースに、どこかよく似ていた。
咲がいつも使っていて、とても大事に使っているのは分かっていた。
なのに、直せなかった。
その後悔が、胸の中で疼いた。
「……」
言葉は浮かばなかった。
ただ、どうにも目が離せなかった。
そのとき、咲がレジを終えて、小走りで悠の横に戻ってきた。
「お待たせ日向くん、結局私も買っちゃ……」
言いかけたその声が、すこしだけ揺らぐ。
悠の目線の先。
棚に置かれた、そのペンケースに、咲も気づいた。
「あ……」
悠は何も言わなかったけれど、
そのペンケースに目を奪われていた理由を咲はすぐにわかった。
自分が大事に使っていたあのペンケースのことを、
悠はまだ、覚えてくれていた。
悠の指先が、あの色褪せた猫の顔を撫でてくれていた瞬間を、咲は思い出していた。
咲は、そっとその横顔を見つめる。
言葉にしないやさしさに、胸がいっぱいになった。
悠はその視線に気づいたように、顔を向けて、ほんのわずかに照れたように笑った。
「……あれ、藤音さんのペンケースに似てるなって、思って」
それだけ。
それだけで、咲の心にはあまりにも十分だった。
どうしようもなく、やさしく広がっていった。




