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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
32/145

ふたりの帰り道1

期末試験が終わり、まだ早い放課後。

悠はいつものように図書室にいた。

窓ガラスから差し込む日は、まだ高く見えた。

冬の冷たい風にカーテンが揺れ、図書室のやわらかい暖房のぬくもりは少しだけ乱された。


悠は、新刊コーナーの棚をひととおり眺めて、ふうっと小さく息をついた。


「……やっぱり、まだ入ってないか」


最近SNSで話題になっている、映画化も決まった新作の文庫小説。

図書委員の購入タイミングは月に一度で、

出たばかりの本が棚に並ぶには、まだ少し時間がかかる。


そのとき


「日向くん、何か探してるの?」


不意にかけられた声に、悠はふり返った。

すぐそこに咲が立っていた。制服の襟元に、淡い色のマフラーが巻かれている。


「あ……うん。最近話題になってる小説でさ、映画にもなるっていう……」


「……もしかして、あのアニメ映画のやつの文庫版?」


咲の言葉に、悠は軽く笑ってうなずいた。


「そう、それ。やっぱ、ここに入るのはもうちょっと先だよね」


咲も「うん、たぶん」と言って、棚のほうに視線を向けた。

図書室の静けさに、暖房の音だけが響いていた。


「秋先生に聞こうにも、居ないね……じゃあ、買いに行く?」

咲は、何気ない調子で言った。


「……藤音さんも一緒に?」

悠は目を見開き、少し戸惑いながらも確認した。


「うん」

咲は微笑みながら頷いた。



図書室を出たあと、ふたりは並んで校門を出た。


外の風は冷たく、首すじにキンと冷たい空気が入り込もうとしてきた。

空はもう、冬の薄青い色になっていて、

街のイルミネーションがクリスマスに向けて少しずつ光を帯びはじめていた。


「本屋なら、駅前のところ?」

咲がふと聞いた。


「うん、あそこなら大きいから、話題の本もあるはず」

悠が答える。


制服のまま、ふたりで並んで歩く。

咲のマフラーがときどき風に揺れて、ささやかな白い息が空にのぼっていく。


書店は、何軒もの店が入った駅前のビルの一階にあった。

ガラス越しに漏れる照明の光が、外の空気よりいくぶんあたたかく見えた。


「……あった」

悠が店内に入ると、話題の小説はすぐに見つかった。


ポスターに大きく「映画化決定!」と書かれていて、

入り口近くに山積みされている。


「……簡単に見つかっちゃった」

悠は少し照れたように言って、一冊手に取った。


「日向くん、買うんだ?」


「うん。せっかくだし、冬休みに読もうかなって」


レジに並ぶ悠の背中を、咲はすこし離れたところから見ていた。

その視線がほんの数秒、悠の手元に止まった。


「……私も、買っちゃおうかな」

ぽつりとそうつぶやいて、咲も棚に近づいていった。


指先でそっと選ぶようにして、同じ本を一冊手に取る。

表紙の絵が、外のイルミネーションの光と重なってやわらかく見えた。


咲も、レジへと歩き出した。

会計の列は、まだふたりを隔てていた。


そのあいだ、ふたりは言葉を交わさなかった。

だけど、それぞれの手に同じ本を持っていることが、

不思議なあたたかさを繋いでいた気がした。

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